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極小曲面編みジャングルジム

幼少の頃、ジャングルジムの幾何学的なフォルムと、カラフルな色に理由もわからず魅了されていたような気がします。ジャングルジムは公園の遊具で一番高く、より空に近づけるから好きだった人も多いのではないでしょうか。
今回は、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス  (SFC)環境情報学部4年對馬尚さんが研究発表した「極小曲面編みジャングルジム」のインタヴュー記事です。

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ジャングルジムと編み物?

極小曲面(きょくしょうきょくめん)とは?-ベルギーの物理学者ジョゼフ・プラトー(Joseph Plateau)が行った実験で、針金で作った輪にシャボン膜を張り、そのシャボン膜の形は表面張力によって重力の影響を受けず膜の表面積が最小の曲面が出来るというのを実証的に証明しています。
写真のような立体的な多面体のフレームではパッと見ると、複雑な形のシャボン膜の曲面が出来る事になりますが,この場合でも最小の表面積をもつシャボン膜が実現しています。

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-田中浩也研究室に所属する對馬さんは数学とデジタルファブリケーションの研究する中、フレームだけで出来た多面体にかぎ針編みをして、極小曲面を求められるのではないかという仮説を思いついたそうですが、ジャングルジムと編み物の関係はどういうものなのでしょうか?

對馬:多面体のフレームを線としたジャングルジムに、編みくるむようにかぎ針をして、面と幾何学を作っています。編み物は実際、双曲平面(まっすぐな空間ではなく、負の曲率を持つ曲がった空間における幾何学)を具現化しやすい。最初は建築的なアプローチとして、中空の空間に鳥の巣や蜘蛛の巣のようなものを糸で作る場合に、適当に作るのではなく素材を最小限に抑えて戦略的に作るにはどうしたらいいかという考え方から始まりました。ジャングルジムに使われている糸(紐)は、ホームセンターに売られているポリエチレン素材の標識ロープを使っています。フレームに編みくるむというアイデアはニットクリエーターの蓮沼千紘さんのフラフープに編み込んだ卒業制作からインスパイアされました。

立方体12辺を境界にもつ形
立方体12辺を境界にもつ形

極小曲面編みの試作に

-極小曲面編みの試作から実寸大のジャングルジムに至るまでを教えてください。

對馬:まずは正四面体6辺を境界に持つ形に輪ゴムを結んで縮尺模型を作りました。

輪ゴムで試作した正四面体6辺を境界にもつ形
輪ゴムで試作した正四面体6辺を境界にもつ形の縮尺模型

その次に、実物大で作ろうと思っていた正八面体→立方体で試作しています。
最終的には人間が乗るものを作るため、縮尺模型でビー玉を乗せて何個まで耐えられるかという実験もしています。

正八面体

正八面体の縮尺模型

また、色が18色に分かれているのは、実物や大きなスケールになった時に、自分一人ではなく18人が同時に編み始めて完成できることを証明しています。
ちゃんと数学的に定義して、その時たまたま出来るものではなく再現性あるものを作ろうと思ってました。

立方体
立方体-12辺を境界にもつ形の縮尺模型

編み物と数学の関係

-編み物と数学の関係についてお聞かせください。
對馬:SFCに入る時の目標として、「数学教育のための媒体やモノをつくりたい」と宣言しました。
編み物に興味を持った数学関係の方はTEDの「マーガレット・ワーザイム」の映像をおススメします。
彼女は、かぎ針編みがサンゴ礁にみられるような双曲幾何学的な複雑な曲率の形を造形できることに着目しています。

また『体験する幾何学』(デビッド・W.ヘンダーソン/ダイナ・タミナ 著書)や『繊維の数学』(井上清博/相宅省吾 著書)という本もおススメです。
双曲幾何や微分幾何、トポロジーなど色々な問題があります。

編み物と教育の可能性

-今後、對馬尚さんの「極小曲面編み」の概念が、建築技術として応用され、編み物の新しい可能性が、人々の生活の中に溶け込む未来をわくわくしながら待っています。
展示の時にジャングルジムを体験した子供たちから「普通のジャングルジムより面白い!」という声が聞けたそうで、将来對馬さんには、知的玩具のように体験を通して遊びながら数学や編み物に触れ、好きになる媒体をもっともっと作ってもらいたいです。

体験

*なお對馬尚さんはこの「極小曲面編みジャングルジム」の研究発表で2015年年度SFC環境デザイン表彰「槇文彦賞」を、Tetsuson2016「栗生明賞」を、日本図学会第9回デジタルモデリングコンテスト優秀賞を受賞しています。


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