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ユニバーサルかぎ針「あみ〜ちぇ」


かぎ針を持つ手が使えなくなってしまった。年をとって細い編み針を握ることが出来なくなってしまった。そんな声に応えて、ユニーバサルかぎ針「Amiche・あみ〜ちぇ」は手先に力が入らないなど手先の動きに不安のある方も編み物を楽しんでいただけるように開発された特殊なかぎ針です。

元看護師であり手編み講師の開発者「平田のぶ子」さんにお会いして詳しいお話を聞いて来ました。なぜ「ユニバーサル」というネーミングなのか。「専業主婦であった平田さん」が、かぎ針を自ら開発し社会貢献につなげる活動をするきっかけは?平田さんのかぎ針開発秘話に迫ります。

まずはじめに平田さんのご経歴と現在やっていることを教えていただけますか

-3年ほど看護師として勤めた後、結婚して長い間専業主婦をしていました。一発奮起でVOGUE学園の手編みコースに通い、その後日本手芸普及協会手編み師範免許を取得しました。手編み講師としては8年ほど活動しています。現在は埼玉大和田を中心に東大宮、上尾で手編みサロンをおこなって「ストレッチ編み」や「あみ〜ちぇ」の普及に力を入れています。

会社ではなく一手編み講師の方が編み針を開発するというのはすごいですね。どのような経緯があって作ることになったのでしょうか。

-体の不自由な方や家庭で療養されているご家族の方から、「昔のように編み物を楽しませてあげたい」という依頼があり出張でそういう方たちの指導をしていました。また、自分の教室でもご年配の方が多く(平均年齢70歳)、徐々に手の機能が衰え、将来に不安を感じている中、「手の力が衰えた時にも使えるかぎ針があったらいいな」と思ったのが最初のきっかけです。国際福祉機器展などを見に行って、不自由な方が使える物がありましたが、大掛かりなものばかりで気軽に使えるものが見当たりませんでした。世の中になければ、自分が作るしかないかと思い、もっと簡単なもので障害があるなしに関わらず使いやすいものを作りたいという想いに駆られました。

編み物をしている人が「一から新しいかぎ針を作る」という発想にはなかなか行き着かないです。平田さん自身が看護師だったという背景があり、それが開発の一助になったのですね。実行してしまう行動力は大変素晴らしいです。

-この案が出た時にVOGUE学園の先生に相談しましたら、知的財産になるからまず権利をきちんと確保してから誰かに頼んだ方がいい。とアドバイスをいただいたので、縁のあった弁理士に相談しました。特許などの権利はお金がないと出来ない、企業に援助を求めても利益を見越せないと難しいということで、最初に実用新案を取得しました。経営論を学んだり企業セミナーなどに通いながら国の創業補助金申請をしました。現在は特許も出願中です。

どのようにちゃんとした形になっていったのでしょうか?

-最初は本体の形を自分で紙粘土やおゆまるくんなどで使って試作していました。クロバー社のシンプルなかぎ針は持つところがまっすぐになっていて、噛ませやすく編みやすかったのでクロバー社製のかぎ針を使用しています。

-その後「メーカーズファクトリー」さんに、3Dプリンタで試作品をモニタリングしながら作っていきました。


最初から金型を作る方法だと、試作に莫大なお金がかかってしまう。また、複雑な形をしているので、金型で形にできる工場がなかなか見つかりませんでした。自ら手作業でしていたものを入れると100個以上試作しています。

100個以上も試作しているんですね。私自身、編み物の進化には「パーソナルファブリケーション」は必要不可欠だと思っているので、ファブラボやファブカフェなどにたまに伺っています。手芸関係の人は全く出入りしていないので3Dプリンタが編み針の開発に使われているというのはとても好印象です。

-プレミアムタイプのデザインは、埼玉県川口にある真空注型ができる機械を販売している「sid株式会社」さんにお願いしています。
プレミアムタイプで使用しているHarehare(ハレハレ)という「sid株式会社」独自の素材はガラスのように透明度があり、劣化しなく、柔らかさと軽さを保ちながら他の素材を組み合わせることができます。プレミアムシリーズは「曙-akebono-」「蛍-hotaru-」「錦-nishiki」「悠-haruka-」という名前で、日本の四季をイメージした和紙や金箔で装飾しています。

なるほど、ハレハレという素材は初めて聞きました。高温で造形するガラスに比べ、約60度で造形出来るので紙や布などと組み合わせてすることも可能なんですね。しかもやわらかく、割れたり折れたりすることもなく、とても軽いというので「工芸」という枠を超えた作品ができるんですね。

スタンダード版はどのようになっていますか

-スタンダード版(和-nagomi-)もポリウレタン製で、価格も5分の1程度になっています。こちらは岐阜県の「芙蓉工芸」(プラスチック加工会社)にお願いしています。どちらも長さ17cm、重さはスタンダード版は31g、プレミアム版が25gとなっています。1つのシリコン製の型から最大20個程度しか出来ないためどうしても高額になってしまいます。

あみ〜ちぇの使い方を教えてください。

-あみ〜ちぇはユニバーサルというネーミングにもあるように「手先の動きに不自由を感じない場合」の人も、通常のかぎ針より少ない力で編めます。麻やエコアンダリアなどの硬い素材の糸も楽に編めます。

「普通持ち」

「にぎり持ち」

-「さかさ持ち」とそれぞれが持ちやすいように使うことができます。さかさ持ちはストッパーを上に向けてかぎ針をセットすることで、ストッパーと本体後方のカーブが手を滑るのを防ぎ安定して持つことが出来ます。にぎり持ちはかぎ針を使ったことのないお子様でも簡単に使えます。


-握力が弱くなった人、右手に不自由を感じている人は補助バンドを使用してより安定感を出すことができます。

-補助バンドを包むように巻いて使用します。「ふつう持ち」「さかさ持ち」「にぎり持ち」とそれぞれのやりやすい持ち方で補助ベルトをつけてしっかり固定が出来ます。


-右手の片麻痺の人は、左手を一から使って覚えるよりも、左手で糸を操って編んだ方が編みやすいといのがわかりました。
ですので、ストッパーを使用して、左手を使って1目ずつ糸をかけながら編む方法をおすすめしています。


-また、両手や左手に不自由を感じる人は、左手に持つ本体の前後を逆にして、補助バンドで左手に固定します。
スリット穴に糸を通して糸案内(左手人差し指の代わり)として使用します。


ストッパーに鎖を仮かけすることで、左手が不自由な場合でも編み地が固定され編みやすくなります。

「あみ〜ちぇ」一つで手先に不自由を感じていない人から、様々な症状の人までいろんな使い方が出来るんですね。特に「両手持ち」を見たときは感動してしまいました。編み物版の宮本武蔵みたいでかっこいいですね。

「あみ〜ちぇ」はどんな人に使って欲しいですか

-今まで出来たことが出来なくなると、それを拒否したりあえてやろうとしなかったりするんですね、今の自分を受け入れて一歩前に進むためには、周りから働きかけてもそれは難しくて、本人次第でしかないと思うんです。《あみ~ちぇ》がそのきっがけになればうれしいです。
まずは手に取ってもらえるために、女性が好きな綺麗なものとしてプレミアムタイプを提案しています。お母さんやおばあちゃんの大切な日に、家族でお金を出し合ってプレゼントするみたいなことがあればいいなと思います。
スタンダード版はさまざまなところでより広く使っていただきたいと思います。医療の現場や福祉施設などでも使っていただきお役にたてればと思います。リウマチや腱鞘炎の患者、高齢者やリハビリなどにも幅広く活用してもらいたいです。
身体面だけでなく、精神面でも編み物をすることで脳トレになったり、心を穏やかにしたりと、編み物の持つ可能性は大きいと思っています。

編み物が大好きだったけど、何らかの原因で諦めなくてはいけなくなってしまった人たちにとって、「ユニバーサルかぎ針あみ〜ちぇ」は一つの希望なんですね。

今後はどのようなものを作りたいと考えていますか

-将来的には編んだものをクリップで留めて、より使いやすい仕様にしたいと思っています。
また、現在はアタッチメントをつけて、7.5号と10号のかぎ針しか使用できませんので、細い針も使えるよう検討をしています。また子供も浸かるようなサイズ感の「あみ〜ちぇ」も考えています。
将来的には、《あみ~ちぇ》を使った人が幸せになれるといいですね。笑顔が増え生活に楽しみができることから始まり、生きがいや、友達が増え、外にどんどん出てほしいと思います。誰かと話す、誰かのために編むなど社会とつながりができることでその方たちが社会貢献もできると思います。そのための仕組みを作ることも私の目標の一つです。



なんと2018年12月現在では、プラスチック製だったアタッチメントアダプタゴム製になり7.5号と10号のかぎ針しか使用できなかったのが、かぎ針全サイズに対応できるようになりました。(レース針全サイズ、そしてかぎ針2~10号までアタッチメントにはめることができ、市販のシンプルな形のかぎ針に対応しています。)

本当に素晴らしいアイディアばかりですね。第一に「社会貢献」という想いがあるからこそ「さいたま市ニュービジネス大賞」女性起業賞を受賞もされたんですね。本日は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。

進化する編み物の道具と編み物が作る輪

手芸関係の人にとって馴染みのない「3Dプリンタ」など使い、一編み物講師が新しい編み針を開発してしまうというのは、単純に手編み講師として編み物を広めたいという想いだけではなく、元看護師のホスピタリティ溢れる想いがカタチになった結果このような素晴らしい編み針が生まれたのだと思います。

また、障害の有無や年齢などに関わらず、一般の人も力を入れないで編めるように(ユニバーサルデザイン)、よりたくさんの人に使ってもらえるようにと「社会貢献したい」という平田さんの想いが、ユニバーサルかぎ針「あみ〜ちぇ」の魅力の一つなのではないのでしょうか。

このかぎ針を通して、「編み物をまた始めたり続けたりするきっかけ」が出来て編み物を楽しむ人が少しでも増えることを切に願っています。

執筆者 Knittingbird 田沼

手編みサロンあみ~ちぇ 平田のぶ子http://ciao-amiche.jimdo.com

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