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「糸の選び方」ニットデザイナーになってまず始めにやること

「横編みのニットの製品」をつくるのは、ベテランのデザイナーでも難しい!?

ファッションの専門学校や、企業で取引するための布帛のデザイン・パターンなどとは違い、
「横編みのニット製品」を作るには、ニットの技術や専門的な知識が必要になります。

これは、「横編みニット製品」が布帛の構造や生産方法とは全く違い、糸1本から編地やデザイン・パターンを想像して、さらには機械をありきで生産を考えなければいけない為、布帛のようにパターンを引き→トワルを組んで→縫製してみるという作業を行うことが出来ません。
作り方がわからないからと言って、ニットサンプルを持ち込み同じようなモノを作って欲しいとと工場に丸投げをするやり方は、工場のためにもデザイナーのためにもなりません。

また横編ニットの技術や生産方法を総合的に教えている学校やコースは全国にも片手で数えるほどで、布帛のデザイナーやパタンナーに比べ「ニットデザイナー」と呼ばれる人は大変希少になっています。(ニットデザイナーっというと一般の人は手編みの人を想像すると思うので)

さらには、企業でも「教育できる環境」は圧倒的に少なく、現役のデザイナーもかなり少ないようです。
中途採用として即戦力ニットデザイナーはかなり重宝されるますが、ニットデザイナーは女性が多く、結婚・出産後に退社する傾向もあり、人材不足・教育不足になっているのが現在のアパレルの現状と言えます。

事実、ニット製品部門のデザイナーがいなくなった場合、新しいデザイナーが見つからなくカットソー部門のデザイナーが引き継ぐことも多くあります。
ここでは新卒のニットデザイナーや、これから新規で取引する方のために、取引の大まかな流れと工場やOEM・商社との付き合い方についてご紹介します。
糸編

ニットの製品が出来るまで〈サンプル依頼前〉 糸から選ぶ方法

知識を知らないことでデザインの幅が広がるということも場合によってあると思いますが、
横編のニット製品は、糸そのものや編み方の知識、工業用編み機の種類、工場の技術・縫製が大いにデザインに関わってくるので、糸を基準にデザインを始めるのが基本となってきます。

また、布帛のデザイナーとは違い、糸1本を調理して、テキスタイルデザイン(編み地)、服そのもののデザイン、パターンなどすべてを一人のデザイナーの指示で仕上げるので、より経験が必要となると共に、とてもやりがいのある職種と言えます。

糸から選ぶ

この場合、デザインのイメージに仕上がる糸を糸会社の糸ブックや工場(OEM・商社)提案の糸ブックから選んでいきます。

糸を選ぶ基準は糸番手(糸の太さそのものを表す値)、混率(糸の混紡率)、ストレートやファンシーヤーンなど糸の種類などから選んでいきます。

イメージの糸がない場合は、糸会社や工場(OEM・商社)に相談したりして、優先順位順に番手・混率・糸の種類イメージの詳細を伝えれば、他社の糸も提案して頂けます。

ブック展開をしている糸は展開色の糸在庫が有りますので、基本的にはBOOKから選びます。
基本糸は1コーン1kg巻を最低ロットとし(不定形巻としてg数がまばらのもあります)発注することが出来ます。
(ラメ糸などの特殊な糸は1コーン250g~500gというのもあります)
別注色として色を作れる糸もありますが、糸染めに可能な最低ロットが(ミニマム)ありますので、生産枚数を考えながら発注しましょう。

別注色は基本的にはアップチャージ(糸代+○円され、糸代が高くなります)が掛かります。(糸や糸会社にもよりますが1色3kg~、5kg~から別注色を作れます。)
また試験染めとして、CMYKで表現できる紙に印刷した色や、他の糸の色見本などを染色工場に送り、糸染めのビーカー見本を出す必要があります。
ブックがなく色糸の在庫を持たない糸も存在します。そういう糸は発注後→染め対応になりますのでミニマムのkg数やアップチャージを確認しておく必要があります。

糸を選ぶ時の注意

糸を選ぶ時には出来上がりのデザイン・編地感や値段等を想像して選ぶことも必要ですが、どこの工場(国)に依頼するかも頭に入れておきましょう。

中国の工場で編立をするのに、国内の糸を選んでしまうと、糸の輸送費が掛かってしまいます。
国内糸でも中国にストックのある糸や中国で紡績している糸もありますので、生産場所に希望がある場合はそれもふまえて選びましょう。
上代を下げるためには日本製の糸だけでなく、中国製の糸やなども選択肢に入れておくとデザインの幅も広がります。

また、夏物で洗える製品がつくりたいという場合は糸を選ぶときから注意が必要です。
最近は毛や綿でも縮まないものも多いですが、レーヨンなどは混率が高いほど縮むものが多くあります。糸会社や工場が糸の堅牢度の試験や検査をしているので、洗えるかどうか確認しておくことも大切です。

糸は単子だと斜行しやすいので、単子の糸はそのまま使用せずに交編したり2本撚糸して使用したり、ピリングの起きやすそうな糸(紡毛糸や多者混の糸)は編み方や度目、縮絨・ソーピングの時間を考える必要があります (畦やタック柄などは糸がこすれる回数が増えるため、ピリングが起きやすくなります)。
*もちろん、あえて斜行する糸の特性を使い斜めになっているストールなどを作るのもニット製品の面白いところではあります。
糸編2

編み地スワッチ依頼

糸ブックに最初から編み地が添付しているものもありますが、糸1本から編み地の風合いや厚みを想像する経験がない場合、ゾッキ(1本のみで編む)ではなく交編や特殊な編み方をする場合などは1stサンプルの前に編地スワッチを依頼することをお勧めします。
もちろん製品として全体で見るイメージとはまた違いますが、この段階で間違えてることがあるのか、自分のイメージがどのくらい形になっているのか比較しやすいです。

また、デザイナーによってはイメージを具体的に伝えるために、自ら手編みや家庭機・手横などを使い自分が作りたい製品の「スワッチ見本」として工場に送る場合もあります。

糸を決めるときに表現したい編み組織を想像しておくことが大切です。
使用したい糸やゲージ・編地のイメージを工場に伝えます。
工場によっても、該当するゲージの編み機があるのか、成形や度目を詰めることが出来るのが、柄の出し方の得意不得意など特有の差が有ります。

企業のニットデザイナーは糸の展示会に行ったり、商社等から糸や編地の提案から選んだりもします。
ニットの編み地は自分の知識と財産になるので、ファイリングしてしまっておくことをお勧めします。
メールやFAXで依頼することは簡単ですが、電話で会話をしたり、直接行くことが可能であれば直接工場に行って対話をして、編地やサンプルの依頼をすることでよりイメージに近い製品が上がってきます。
お互い「共通言語」喋るためにも、工場(OEM・商社)の技術者や担当者と顔を合わせて会話をすることは信頼関係につながります。

次回はその②「ニットデザイナーになってまず始めにやること(サンプル編)」に続きます。
written by shoco