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手芸糸と工業糸の違い

一般の人が手編みに使う手芸店で買える「手芸糸」とアパレルやメーカーが工場の機械で編むために使う「工業用糸」の違いについて話したいと思います。

工業糸、手芸糸

巻いてある状態の違い

手芸糸とは一般の人が、手芸店で買える糸を指し、皆様が普段一番目にしている糸になります。
糸の形状としては、40g~60gぐらいの玉の状態で販売されています。(この玉というのは、一般の人が想像する丸い毛糸玉や、玉巻器で巻いた玉の状態とは異なります)

玉の状態の手芸糸 玉の状態の手芸糸

また、「手芸用糸」には紡いだ糸を綛(かせ)の状態に巻いた「かせ糸」もあります。
手編み糸は染色するために100g~200g位のかせの束に巻かれています。特に段染めの染色をするためにこのかせの状態にする作業は不可欠です。かせの状態ではそのまま編むことが出来ないので、かせくり機と玉巻機を使い玉の状態に戻す必要があります。

玉の状態もかせの状態も、糸を緩く巻くことが出来るため手編みのような柔らかい風合いの糸を殺さずに巻く方法として最適です。
かせ糸かせ糸の手芸糸

工業用の糸は1kgを基準にコーン巻になっています。(中には0.94kgなどの不定形巻の糸も存在します)
購入先も糸商社や紡績工場から直接買うのが基本になりますので、一般の方はあまり見る機会がないと思います。

コーン巻糸コーン巻糸

工業用の糸は紡績をする際に、手芸用毛糸より油を多く残しています。触ってみると多くの場合手芸糸に比べ肌触りがガザガサしています。これは、機械で編むことによりテンションがかかり、弱い糸だと切れてしまうのためです。(場合によっては糸を巻きなおすときや、編む時に蠟引きをしてさらに糸を切れづらくすることもあります)このような糸の状態なので、工業用糸を使って工場で編まれた製品は編まれた後に洗い(ソーピング)や縮絨をかけます。(一部の春夏糸やアクリル混などは洗わないこともあります)工業用糸の場合油を落とすためでなく、ソーピングや縮絨で、編地の風合いを調整するという理由も入っています。また、多くの日本製の工業用糸巻き機はコーンに強く巻いてしまうため、手編みで使うような工業糸を巻く場合は引っ張って伸びている状態になってしまうため、イタリア製の特殊な工業用糸巻き機でフワッと巻く工場が少なからずあります。(あまり日本にない特殊な機械なので、この機械で糸を巻くだけの仕事が存在します)

表記の違い

手芸用糸は紙ラベルが、工業用糸はコーン内側に糸の詳細が表記がされています。
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どちらも糸も糸の名前(工業用糸の場合は糸の英数字名などもある)とカラーナンバー、ロットナンバー(同じ色でも染色の窯違いで色が微妙に誤差があるので)が記載されています。

手芸糸はその他、混率、糸の重さと長さ適性の参考使用針(かぎ針〇号、棒針〇号)、取扱い洗濯表示、製造地表記が記載されています。
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工業用糸は重さの記載がほとんど書いていなく、その代わりに必ず糸の太さを表す単位*番手が表記がされています。また工業用糸には編地スワッチと他の色の糸が巻いている糸ブック帳があります。そちらに、混率や取扱洗濯表示が記載しているのでコーンには表記していません。

ブック

糸の値段と売り方

手芸用糸は手芸屋で誰でも購入することが出来ます。
手芸用糸は1玉いくら(300円など)という値段で、小分けにされて売られています。また1袋という単位で、8玉~12玉が一袋になった単位で買うことも出来ます。1kgに換算すると1万円前後の糸が沢山あり、工業用糸に比べて割高になっています。

工業用糸は糸商社や紡績工場から購入しますので、直接取引や取り扱っている糸の振り屋さんを知らないと買うことが出来ません。(しかしながら、1kgごとに購入するため必ずあまり糸が残るので、この残糸(あまり糸)を販売している会社やオークションサイトでは一般の方も購入することが出来ます)

工業用糸は1kgから購入できますが、小口チャージや配送料がかかります。だいたい1素材10kg~以上でチャージ料がない値段で買うことが出来ます。(サンプルを作るのに最少で購入し、量産を作るのにまとめて買うのが普通です)また、工業用糸は3kg~、5kg~別注色(染め直してオリジナルの色味を作る)を購入することができます。普通のアパレルやニットメーカーが使うのは1kg/3000円くらいから6000円くらいの糸が多く、とても高級なカシミアでも2万円~3万円程度なので、手芸糸を買う人にとっては量は多いですが、重さで換算するとかなりお安く感じると思います。

糸の繋ぎについて

手芸糸は小分けにしているので、セーターなどの大物を作る場合次の糸と糸を繋ぐために結び目が必ず出てしまいます。糸をつなげる場合多くははた結びという限りなく結び目がほどけづらく目立たない結び方をするか、糸端を脇に持って行き、縫い代に隠すことで結び目をつくらないという(この場合糸ロスが増えます)二つの方法があります。

工業用糸は1kgごとのコーン巻を次の糸とつなげる際に、「エアーで結び目なく糸を繋ぐ機械」を各ニット工場が持っているので、結び目が出ることはほとんどありません。

糸の太さ

手芸糸は、手で編める範囲の糸なので、太さに限りがなくかなり太い糸もありますが、手で編めない(編みづらい)ような細すぎる糸は販売していません。
工業用糸は機械で編むため、かなり細い糸も存在します。横編に限らず丸編(ジャージーなどのTシャツ素材)を入れたら極細の糸ばかりです。横編では3ゲージの機械が一番太い糸を編める機械なので、手芸でいう並太程度が最大の太さになっています。

糸の堅牢度

糸には染色堅牢度というものが存在し染色の丈夫さ表記するためにJIS規格でその試験方法が定められています。
アパレル業界では、製品を納品する前に「納入前検査」が定番になっているので専門機関も沢山あり、百貨店が最も厳しく、必ずこの堅牢度検査票の提示が求められます。

ニット製品は編むときの度目(編む強さ)と縮絨・ソーピングでも堅牢度は変わってきますが、手芸糸に比べ工業用糸は堅牢度が高い糸が多く存在します。(甘撚りの糸や、毛玉が出やすい糸は百貨店で売るにはNGになること多い)
手芸糸は逆に、堅牢度を気にしないで作っている場合もあるので、かなり甘撚りの糸や、アートヤーンなど機械にハマる糸の太さも気にしないで作家さんが作っているという環境は面白いと思います。