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強撚糸の世界

手編みではあまり聞くことのない「強撚糸(きょうねんし)」ですが、「機械編み」や「織物」の世界ではよく使われます。

編み立てをしてスワッチを作ってゲージを取ってから→サイズ通りぴったりと作るのが普通の作り方ですが、「強撚糸」は狙って作ることが難しく、半分偶発的にデザインをすることが出来るのが特徴です。

「意図的なもの」と「偶発的なもの」両方を知ることで「ニットのデザイン」の幅が広がります。

強撚糸ってなに?

まず「撚糸」についてわからない方は過去記事→「撚糸について」を参照してから続きを読むと理解しやすくなります。

強撚糸は糸に必要な撚り(ねじり)を、S方向もしくはZ方向に強い撚糸がされた糸です。撚りが甘いのは「ロービング糸」と呼ばれ、糸そのものの柔らかい素材感を生かした糸になりますが、糸の強度が弱くキレやすいため細い糸はほとんど存在しなく、手編みに使われるようなある程度太めの糸として使われています。逆に強撚糸は撚糸が強いのでザラザラとした触感の糸でほとんどが細い糸しかありません。(この理由は最後に)

織り生地「縮緬(ちりめん)」で使われる「強撚糸」


縮緬とは縦糸に無撚糸を使い、横糸に強撚糸を使って生地を織り、その後加工をすることによって表面に「シボ」と言われる凹凸ができて独特の風合いになる生地のことです。和服の素材や風呂敷などで見たことがある人は多いと思います。
また、強撚糸は麻のような独特のシャリ感が出るため、綿素材の強撚糸を一部使い麻のような素材感を出すためにも使われています。もちろん手織りでも使うこともあります。

横編みで使われる強撚糸

強撚糸はシワになりにくく、シャリ感とさらっとした独特の風合いが出るので夏物のニットに使用されることが多いです。
そのまま1本の糸(ゾッキ)で編むと撚糸のバランスから綺麗なループができなく、麻などの硬い糸とかと同じように真っ直ぐにならなく編み地が「斜行」してしまいます。

これはデメリットではなく、織の縮緬生地のように偶発的なデザインとしてニットの技の一つとして使われています。

S撚りの強撚糸とZ撚りの強撚糸


強撚糸は単糸で形成されるのでS撚りの強撚糸とZ撚りの強撚糸が存在します。
この二つの糸を2本取りで編むことで、撚りのバランスが同じになり普通の糸と同じように斜行せずにまっすぐ編むことが出来ます。

S撚り強撚糸(黄色)とZ撚りの強撚糸(グレー)二種類を交互に使ったボーダーを編むだけで、斜行する方向が逆になり編み端が尖った編み地を作ることができます。同じ撚りの糸でやる場合は表編みと裏編みで交互にボーダーを使えば同じ編み地を作ることが出来ます。

強撚糸を生かしたデザイン

表目と裏目だけを使った市松模様を編むだけで切り替え面に凹凸ができる。

強撚糸の斜行する特性を使って、表目と裏目だけで市松模様を使うと凹凸ができます。
一見難しそうに見えますが、正方形サイズの表目と裏目が交互に並んでいるだけでとてもシンプルな編み地です。

また、袋編み部分と表天竺部分を作って、引っ張られる部分を作ることで縮緬のようにうねうねと揺れているような編み地を作ることもできます。

手芸糸として存在していない理由

強撚糸は撚糸のバランスの関係で糸がコーン(玉)から離れた途端に「ビリ」が出て糸を巻き込んでしまい、太い糸では余計にそれが出てしまいます。✳︎ビリとは糸が撚りの強さで真っ直ぐ使えず糸を巻き込んでしまうこと。
ビリが出て糸を巻き込んでしまった糸。

よって手編みに編める太さの糸が存在しないのが一つの理由です。
また、このビリは糸を引き揃えて引っ張っていないと出てしまう現象なので、手織りでは糸の両端を引っ張って使っているのでビリが出ることがありません。


手編みで使う場合、糸が玉から離れて手元で編むまでの距離を短くしたり、この間にストローなどの簡易的なビリ止め装置を作る方法で編むことも出来ますが100%ビリをとめることは出来ないです。将来的に手芸道具の一つとして強撚糸が編める道具などが発売されたらいいですね。

どうでしょう、「強撚糸」に興味を持ちましたか?
強撚糸は機械編みでも比較的「玄人向けの糸」ですが、偶発的なデザインが出来ると考えると手芸糸として編み物をしている人が使ったらさらに面白くなると思っています。

工業糸が手編み用の糸として使われるようになってきた昨今、手編みではなかったものも少しずつ増えてきました。このように手芸と工業のクロスオーバーがどんどん進みどちらの業界にも良い影響が出て業界自体がもっと盛り上がったらと思っています。