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映画「彼らが本気で編むときは、」荻上監督にインタビュー

*この映画はすでに上映は終了しています。DVD等でご覧くださいませ。

今年の2月25日に全国の劇場で公開され、生田斗真さんと桐谷健太さんが恋人同士を演じたことでも大きな話題を呼んだ、映画『彼らが本気で編むときは、』。『かもめ食堂』や『めがね』などを手がけた荻上直子監督の5年ぶりの新作は、トランスジェンダーの女性を主人公とした、人と人の愛やつながりを紡いだ心温まる物語。
随所に編み物の描写があふれるこの映画をどうしても取材したいと思い、荻上監督にインタビューさせていただきました。

素晴らしい映画をありがとうございました。今回の映画を作るきっかけになったのはなんでしょうか?

ー「性は男と女だけじゃない」という見出しで、ある親子が紹介されている新聞を見つけました。その子供がトランスジェンダーで、中学生の時にオッパイが欲しいと母親に告げると、その母親が「ニセ乳」を作ってあげたとあり、すぐさま連絡をとって直接その母親に会いに行って話を聞いたのが始まりです。

とても面白いきっかけですね。今回の映画を通して伝えたいことはなんでしたか?

ートランスジェンダー(を含むセクシュアル・マイノリティの人たち)に対する差別や偏見をなくしましょうということを大きな声で言いたい訳ではなく、純粋に映画を楽しんでもらいたいという気持ちと、いろんな人がいていいんだよねというのを確認したい、いろんな人がいて当たり前、こんな人はいてはいけないという人は一人もいないということです。

荻上監督自身は編み物はされますか?

ー今はほとんどしませんが、20代後半くらいの時にお金もない、仕事もないという時にふと思い立って編み物をしたことがあって、でも飽きっぽいので一瞬でやめてしまうんですけど、不安で不安でしょうがない時にやっていたことがありまして、編み物は念がこもりやすいと同時に不安な気持ちを浄化させてくれるというのは身をもって知っていました。


今回主人公のリンコ(生田斗真さん)が常に編んでいるものがキーになっていると思いますが、これはどのようにして生まれたのですか?

ー変なものを編ませたいと思って、セーターとかマフラーとか靴下ではなく、形になるもので使い道のないものを編んでいるっていう設定にしたくて。女の子からもらった手編みのセーターは(気持ちが)重くて着れないということがありますが(笑)、編み物は念がこもりやすいということはもちろん、編む想いが人それぞれ違うというのを表現しました。

今回の映画に編み物の描写がたくさん出てきますがどこから影響を受けましたか?

ー映画『めがね』でも棒針編みをしているシーンがありまして、モノを作っているシーンを入れるのは好きでした。ノルウェーのデザインユニット「アルネ&カルロス」のお二人の写真を見てとても素敵だなと思い、編み物を映画に入れたいと思いました。今回はコラボ企画としてお二人にデザインをしていただき、アルネ&カルロスの公式ファンクラブの「アルカロクラブ」のメンバーが、リンコ・マキオ・トモの編み人形を制作してくれました。


『彼らが本気で編むときは、』を見終えて

この映画は、ベルリン国際映画祭ではパノラマ部門とジェネレーション部門の2部門に正式出品され、「テディ審査員特別賞」と「観客賞(2nd place)」をダブル受賞する快挙を成し遂げました。また、映画としては初めて渋谷区と渋谷区教育委員会の「推奨作品」に選定されたほかに、文部科学省選定作品(少年向き・青年向き・成人向き)にもなっています。見させていただきましたが、『かもめ食堂』や『めがね』、『レンタネコ』など過去の荻上監督の作品とはまた違った魅力が溢れる素晴らしい映画でした。監督は主演にはこの人しかいないと思い生田斗真さんを選んだそうですが、トランスジェンダーという難しい役を演じ、性別を超えた美しさと優しさに圧倒されました。人それぞれの美しい内面を映し出す映画は、最後には男とか女とか関係なく単純に個性は素晴らしいものというのを深く感じることが出来るでしょう。
編み物をしていない人も楽しめる映画ですが、日々の生活で編み物をしている人は、「それぞれが何のために誰のために」編み物をしているのか感情移入が出来て、より楽しめる映画になっています。映画を観ることで新しい発見や改めて編み物の良さに気付けるかもしれません。


『彼らが本気で編むときは、』を手がけた荻上監督

【作品詳細】
『彼らが本気で編むときは、』
公開日:2017年2月25日(土)
出演:生田斗真、柿原りんか、ミムラ、小池栄子、門脇麦、柏原収史、込江海翔、りりィ、田中美佐子 / 桐谷健太 ほか
脚本・監督:荻上直子
配給:スールキートス
© 2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会