ニッティングバード

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ニッティングマシーンをハック!!『グリッチニット』

編み物はいつまでもアナログなものではなく日々何かしらの進化しています。
もう廃盤になってしまった日本製のブラザー社やシルバー精工の編み機、は今でも海外では根強い人気でオークションサイト上では高値で取引されています。過去の記事「家庭用編み機の歴史とこれから」でも少し紹介しましたが、2010年に家庭用電子編み機がパソコンから編み機へ柄データを読み込ませる改造(ハック)がアメリカで行われ、Youtubeで改造した動画が公開され、エレクトロニックニッティングマシーン(家庭用電子編み機)の新しい可能性が出てきました。世界には多くの電子編み機が輸出された背景もあり、デジタルファブリケーションとしての可能性が見出され様々な国で同じような改造が行われています。

今回はアーティストでありファッションデザイナーでもあるヌケメ氏が、ニッティングマシーンをハック(改造)して使ったプロジェクト『ニッティングマシーン・ハックとグリッチニット』について迫って行きたいと思います。

グリッチニットのことについて話していただく前に編み物では聞き慣れない「グリッチ」について詳しく教えていただけますか?

-『グリッチ』はバグやノイズといったものと同じ意味で、「機械やデータの破損そのもの」や、「破損しているけれど再生が可能な状態」のことを指します。

-目の前に壊れている状態のモノがあって、同時に頭の中に壊れていない状態のモノが浮かんでどう変化したのか。ということを認知できるのが『グリッチ』の面白いところです。記憶をハッキングされたようなドキっとした要素を感じることが出来ます。2011年に僕が発表した「グリッチ刺繍」ではインターネット上にある企業ロゴやアイコンをグリッチさせて刺繍をしています。ロゴではなんでも良いわけではなくて、○とか□とかをグリッチしてもあまり面白くない。馴染みのあるものでほとんど無意識に生活の中で使っているようなものをグリッチすることで「グリッチ刺繍」の面白さがわかります。

ヌケメさんの作品はネットを通して何度も見させていただいていて昔から好きでした。僕自身「ヌケメ帽」を一つ持っています。過去には「サンリオ」や「うる星やつら」とコラボしたりしているんですね。

-「ucnv」さんというアーティスト/プログラマーの方がいまして、そもそも僕がグリッチのやり方を教わったのが、ucnvさんのワークショップだったのですが、ucnvさんと共同企画で伊勢丹新宿店での『Glitch@TOKYO解放区』が決まった時に、データが壊れていることの面白さを一般の人に伝えるときに、何がどう壊れているかみんなが知っているポピュラーなモチーフで現実的に仕事ができるところを探している中、サンリオさんが候補に上がって交渉の結果OKが出ました。

-誰もが知っているようなサンリオやうる星やつらのキャラクターを「グリッチ」することで「違和感と記憶のハック」が生まれることでグリッチの面白さがより伝わったと思っています。

確かに、昔から知っているキャラクターが崩れることで懐かしさと同時に新しいデザインのような、なんとも不思議な感覚に陥りますね。キティちゃんも「カワイイ」ではなく純粋に「カッコよく」見えます。

グリッチのやり方・壊し方はどのようにしているのですか??

-ヘックスエディタ、とかバイナリエディタって言われるPCソフトがあって、いろんなデータを16進数で開いてくれます。グリッチ刺繍の場合、まず元の画像を刺繍データに変換した後に、刺繍データをエディターで開いてデジタルの16進数(00~FF)の並びを手で打って書き換えていくとという方法でデータを壊しています。グリッチデータの作り方としては一番単純なやり方の一つです。刺繍データーの針の動き,コンピューターミシンの針のXY座標を指定している部位だけをコツコツ壊して行きます。

00~FFの数字をランダムにいじって、刺繍データとして開いた時に壊れているということは狙ってデザインできないということなんですね。

-はい。モノによっては100パターンくらい作ってそこからピックアップして選定しています。意図してデザインは出来ませんが選ぶ作業自体はデザインの要素が入っています。原型を留めず壊れすぎてたら元がわからない、少ししか壊れていなかったら面白くない。壊れているというのもわかるし、元が何だったかというのもわかる中途半端な感じを僕は大切にしています。

グリッチの元の画像のモチーフの大切さ、壊れ具合のバランスどちらも必要なんですね。

グリッチの定義と具体的な壊し方がわかったところで本題の『グリッチニット』について教えてください。



-『グリッチニット』のプロジェクトの内容は大きく分けて2つあります。
1つ目は、ニッティングマシーン(家庭用電子編み機)をハック(改造)して、誰でも画像をニットとして出力(編む)することができる環境を公開すること、そしてハックしたニッティングマシーンを使ってグリッチニットを作ることです。

また出力する柄の方法として2パターンあります。編み機に入力する画像データ自体をグリッチして編み機でニットとして出力(編んだ)もの、ちゃんとしたレース編みにならないでレース編みの構造を破綻させ、穴だらけのボロボロのニットとして出力したのを作るというものです。

データを壊して出力(編む)するというのは海外にもいますが、レース編みの構造自体を壊して穴だらけにしているという人がいなくて僕自身そっちの方が面白いと思っていて、昔ギャルソンがやった黒い穴だらけのセーターのデジタルアップデート版という文脈で作っています。その機械を使えば誰でも出来るという「環境」も一緒に作ったのが面白い部分だと思っています。

グリッチニットはヌケメさん一人ではなくチームで行なっていると聞きましたが。

-電子編み機のハッキングの方法と作り方を公開しているのは海外にも何組かいて、有名なとこだとKniticがいます。僕たちは管野創さんがソフトウェアの部分担当、テクノ手芸部のよしだともふみさんがハードウェアのハッキングを、ファブラボ渋谷の山本詠美さんがサポートとマネージャー的な感じで関わる4人チームでやっています。そもそも、ファブラボ渋谷の企画として『グリッチニット』をクラウドファンディングで資金を募るために山本さんに動いていただきまし。よしださんには電子編み機の基盤を外して自分たちで作った基盤を付け直してPCと通信が出来る状況までのハードウェアの方を改造することをしてもらっています。その後で画像を編み機用のデーターに変換して、ちゃんと編み機の針が選針するソフトを書くのが菅野さんのパート。その出来上がった環境でどういうものを作るかというのが僕の仕事です。

それぞれのスペシャリストが集まって形になったプロジェクトなんですね。自分たちで単純に作るだけでなくて、オープンソースとして公開するとはとても意義のあることですね。

今後は「グリッチニット」としてはどのような活動を視野に入れていますか。

-具体的なアイテムとしてはマフラーやストールのようなまっすぐ編む簡単なものではなく、グリッチのセーターなどを作りたいと思っています。僕自身が編み物が出来ないしニットのことがほとんどわからなく、アイディアはあるが現実的に技術的にどうやればいいのかわからないけど、誰からの手を借りれば形に出来る状態が続いています。今から新しいことを覚えるより誰かにお願いして分業制にして形にしていくというのが現実的なのかなと思っています。

グリッチのセーター着てみたいですね!家庭用編み機だけでなく工業用の編み機などでグリッチをしてみたいですか?

-もちろんやってみたいです。単純に工業機で作ることでモノのクオリティーが上がるというのもありますが、工業機でやることで出来る幅が広がると思うので工場の人たちに技術的なことをサポートしていただいて、デザイン等の方向性を一緒に考えていければ『グリッチニット』として2ステップくらい上に行くような気がします。ニットならではの方法じゃなければ出来ないという風合いを形にしたいです。

工業機なら糸の太さや編み方も幅広いし、糸を強撚糸や未防縮ウールなど2次加工ありきで「グリッチ」のデザインプロセスと組み合わせれば可能性はさらに広がりそうですね。ホールガーメントならもっと面白いことも出来そうです。

-ヌケメという名前でやるときはなるべく自分の手をかけないようにしています。Less is Moreというか、シンプルなルールだけで作品が出来ていて、単純の中に複雑さを含んでいる、というのが理想です。例えば『グリッチ』でもイラストレーターやフォトショップを使えば、『グリッチ』っぽい画像はいくらでも出来るのですが、それだと絵を描いてるのと同じなので、あまり興味がないです。個人的には、作者のこだわりとか自我みたいなものをどんどん消して行った先に、面白いモノが生まれたらいいなと思っています。将来的に、今の仕事が人に代わって機械やコンピューターが労働する世の中が来るようなら、その中でデザイナーやアーティストがやるべきことはどういうことなのかというのを考えています。

思考的には手芸や手編みをやる人が考えることと正反対な考えですね。だからこそ家庭用編み機を単純に復活させるだけでなく、デジタルファブリケーションとしての『グリッチニット』という面白い作品とオープンソースが出来上がったのですね。今後も『グリッチニット』だけでなくヌケメさんの活動がますます楽しみになりました。

最近では家庭用編み機でジャカードの糸渡りデザインポイントにしたセーターと、穴あきを応用したデザインのグリッチセーターを発表したばかり。
2色編みと1色穴あきタイプがあり2サイズ展開の「グリッチニットセーター」はグリッチニットのタンブラーサイトで予約受注を受け付けているそうです。


ヌケメ
1986年生まれ、東京在住。ファッションデザイナー、アーティスト、プログラマ見習い。他分野の作家との共同制作による作品が多い。ミシンの作動データにグリッチを発生させる『グリッチ刺繍』が2012年に第16回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査委員会推薦作品に選出。同作品でARS ELECTRONICA 2013に出展、作品展示とワークショップを行った。主な所属集団にはOkay、Semitransparent Design、IDPW、gokinjo-monozukuri.org、TANUKIなど。
http://nukeme.nu/
https://cargocollective.com/nukeme

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執筆者 Knittingibird 田沼


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