ニッティングバード

ニット専門のウェブマガジン

ニット専門のお直し屋さん「ニットキュア」

東京足立区にアトリエを構えるニットの治療院「ニットキュア」にお邪魔してきました。ニッティングバードも過去にいくつか編み物のお直しについて紹介してきましたが、今回はニット専門のプロが行うお直し。期待を胸にお直しの極意と代表の植木さんのライフスタイルに迫っていきます。

ニットキュアを立ち上げた経由と、なぜ「お直し」の仕事に行き着いたのか教えてください。

-高卒でバイトを転々としていて、北海道に出稼ぎに行ったり、知り合った友達がいる沖縄の方でも働いていました。そもそも暮らすのに、東京での暮らししか知らなかったので地方での暮らしに興味がありました。そんな生活をしている時に、食費と住むところさえあれば生きられる、そんなコンパクトな暮らしがしたいなと思うようになり、「何か自分の好きなことがちゃんと仕事になれば」と考えていました。周りの上手に働いている人を見ると好きと仕事のバランス両立している人がいました。
学歴もないし何か特別な技術を持っている訳でもない、だけれど何か作るのが好きだった。修理に関係する仕事だと初心者でもOKという求人が多かったので、探していたら偶然ニットの修理が見つかり働いてみたら「なんて楽しい仕事なんだろう!」こんな楽しい仕事があったんだと思いました。

お直しには手を動かして何かものを作ることに繋がる面白さがあるんですね。

-働いていた、ニットのお直し屋は業界でも有名な、海外のラグジュアリーブランドや日本の有名ブランドのニットのお直しをしているところで、とてもニッチな市場なので工賃が高くても問題なかった。こういう産業自体あるんだなと思いながら働いていました。

全く知らない世界に入り、ゼロから学ぶというのはとてもやりがいがありますね。それが大手のニットお修理屋となるとなるといろんな面で勉強になりそうですね

-「ニットのお直し」はニッチな産業で絶対仕事があり、意外とお修理の専門店からの仕事も絶えない仕事です。数年後に一緒に働いていた人が独立して修理屋を立ち上げるから一緒にやってくれないかと誘われ、思い切って一緒にやってみましたが、色々あって彼女とは別の道を歩むことになりました。さぁこれからどうしようという時に、自分には技術もあり、お店を始めた経験もできたので、じゃあ自分でやり始めようかというのが最初のきっかけです。営業の経験や、自分でHPで作ることもできたので、やってみたら思ったよりかはうまく行って、お金をかけずに全国各地から依頼を受けるというシステムを構築して今年で八年になります。

ニットの修理があること自体知らない人も多いと思いますし、まだまだニット専門のお直しの市場は沢山ありそうですね。

植木さん自身は編み物をしますか?

-編み物や洋裁もします。「モノを作ること」自体が好きですが、編み物も洋裁もちゃんと1から教わったことがなかったので、何度何度も本を読んで解読して、手を動かして失敗したらやり直すことを繰りします。それが功を奏してか、修理に関してもいざ立ち上げてみたらやったことのない作業がバンバン出て来て。独立した当初は、時間もあったので様々な種類のお直しを、解いて直して、解いて直してを繰り返しながら手探りでしていました。今は効率の良いやり方をできるようになっています。

同じような修理はあっても、一つの同じお直しではなく2つ3つの複合的な技術になるということですね。基礎的な技術があり、さらに頭で考えながら手を動かしながら成長してきたんですね。

ファッション業界は年2回のコレクションや展示会に向かって忙しくなりますが、「お直し」は忙しい時期はありますか?

-「お直し」の閑散期として夏が暇になります。これは、単純に秋冬の方がニットのアイテムが多いということと、ニットをタンスから出して着始めてお直ししたいと思うお客さんがいるからです。ニットキュアでは10から1月が一番忙しいので冬に一般の方からのを受付中止をしています。最近ではそのように伝えてあるので、夏に依頼してくるお客様も増えて忙しくなっています。

修理依頼を受けてからどのくらいでお直しが完了しますか?

-一般のお客様は依頼を受けてから、1週間、お店は2週間でお願いしています。
長く置いておくと忘れてしまうのと、置く場所がなくなってしまうのですぐに修理して返すことを心がけています。

ニットのお直しの詳細を教えてください。

-お直しは単純に時間が長いと金額も高くなります。HPに載せているのはお客様からみてわかりやすいようにしています。
まず大きく分けて「サイズ直し」と「ほつれ直し」があります。

-ほつれ直しは、穴、リンキング直し、ひきつれ、つまみの4種類に別れています。

-穴の場合3段分切れていた、3段分を解いて1段にしてメリヤスハギをして始末します。表からはとても綺麗に見えますが、裏は糸始末が残ります。あまり大きいと、糸始末が多くなってしまったり、目がよれたりしまうので中抜きをしたりします。この技術は袖の丈詰目と同じことをやっています。

-リンキング直しは、リンキングマシンはあるのですが、距離が短いので機械でやるよりも手でやる方が圧倒的に早いので、半返しの要領で1目1目戻して修正します。

-「ひきつれ」は地道に引っ張って目を綺麗に戻す作業です。



-「つまみ」は以前テレビでも紹介された、ご家庭でも出来る「ニットキュアオリジナル」のお直し方法です。先の丸い刺繍針とニット用のミシン糸を用意すればとても簡単に出来る穴あきのお直し方法です。
編み目をを解いて綺麗にメリヤスはぎをする「穴」のお直しとは異なり、跡は少し残りますが、短い時間でできるので工賃も安くなっています。

ご家庭でも出来る方法をご伝授いただけるとは。とても嬉しいです。

-サイズ直しは「手直し」と「ミシン」に別れます。袖の丈を詰める場合は、手作業で編み目を解いて綺麗に修正します。

「工業用の本縫いミシン」や、「ロックミシン」を使う場合はどのような時ですか?


-基本的には手作業がメインなのであまり使いませんが、修理の際には全く同じ糸を使った方が綺麗なので、脇や袖下に使っているリンキング用の糸(手編みでいうとじはぎの糸)を解いて使います。その解いた部分を本縫いミシンで叩いて縫製し直します。

身幅や袖幅などはニットの構造上解いてもお直しできないので、ハサミ入れて切ってロックミシン等でサイズ変更します。その他お客様に予算に応じて、手作業ではなくミシンでお直しすることもあります。ミシンでの修正は圧倒的に速いので。

お直しの依頼が来るのはどんなお客様が多いのでしょうか?

-もともとは個人のお客様を主体に始めましたが、今は7〜8割くらいがお店のお修理が専門です。個人のお客様は2割程度と減っています。

お店のお修理というのは、お直し屋さんから来るニット製品のお直し依頼ということですか?

-はいそうです。洋服のお直し屋さん、それからメーカーさん、クリーニング屋さんからの受注のことです。

私たちも本業ではないですが様々の人からニットの修理のご依頼がきます。ニットキュアではどのような方からお直し依頼が来ますか。

-傾向としては1万円超えると新しい洋服が買えるから1万円くらいまでのお修理なら直してもらいたいという人が多く、1万超えてもいいという人は、修理料金に値段の糸目をつけないという方が多いです。

女性の場合はただ勿体無いからまだ着たいという方が多いですが、時々あるのが母の形見セーターや、痴呆の母がどうしてもこのセーター気に入っていて、穴だらけなのはわかっているけど、どうしても着させたいから直したいという方もいました。

値段を高く出すのは圧倒的に男性の方が多いです。女性は1万以上のお直しになると違う服を買えばいいかと行き着きますが、男性の場合は10年着ていて同じデザインのものがなく元通りのデザインがいい、まだ着たいから直して欲しいという相談は多いですね。

お仕事としてくるのはざっくりとしたニットが多いのでしょうかそれとも、ハイゲージが多いですが?

-圧倒的に手編みのニットよりも、機械編みで編んだハイゲージニットのものが多いですね。特に夏は薄手のニット製品を着ているので。

最近ストールに編み直すお直しも始めたんですね。

-ニッターさんに知り合いがいて、彼女に仕事を作りたいという思い出始めましたがまだまだこれからのお直しですね。
これをHPに載せてからは、編み直しの依頼が増えました。編み直し依頼は毎年数件きますが、値段が合わないのでなかなか形にできません。お客様に編み直したいという想いはあるのはとても良いと思います。

植木さんにとってお直しとはどういうモノですか?

-クリエイティビティがあって、依頼はちょっとずつ毎回違う。同じような穴の修理でも、目の大きさが変わって、色が変わって素材が変わるともうやり方がちょっとずつ変わっていきます。毎回変わるのがめんどくさい人もいるとは思いますが、私は飽きないでいられますしそれがとても楽しいです。毎回チャレンジで毎回どうやって修理しようかと考えながらやっています。修理はマイナスになってしまった服をプラスにするだけでなく、プラスαの価値が出るよねと同じ修理している人と話しています。今までゼロだったものが、穴が開くことでマイナスになり、ゼロに戻すのが修理ではなく「修理するとさらに上がった価値が出て」持ち主のお客さんも思い入れが入って、他の服よりも愛着が出る。サイズ直しでも、今まで丈を折って着ていたものが、自分の体型にぴったりに出来上がると、既製品なんだけど既製品を超えた価値が出るものだと思っています。そういうのはとても特殊で、お客さんからありがとうと言われるたびに「お直し」はいい仕事だなと思ってます。

私たちも頼まれて、家庭機で編み直すというお修理を経験しましたが、思い入れのあるものをお直しした時はとても特別な時間に感じられました。

-それから、人生のテーマとして「自給自足」という言葉があって。たくさんお金を稼いでたくさん使って生活を成り立たせるというのではなくて、お金を稼ぐのはあまり得意じゃないけど、出費を減らせば収支が成り立つ。というのが20代の時に思ってずっと実験をしている感じがあります。今の売り上げで、贅沢しないで生活すれば問題なく暮らせる。修理をしているので、自分たちの服も簡単に修理はできるし、家で不具合が起きたら、自分たちの手で直していけると、お金を使う場面が減っていく。沢山お金があって、沢山モノ買わなくても、自分で直接生活を生み出すことができれば、最低限のモノだけで生きられる。修理っていうのは、そういう考えにかなり近く、本当はこういうことをお客様と直接共有できたらと思っています。

好きなことを仕事にすること。

今回ニット専門のお直し「ニットキュア」さんを取材して、ニットのプロである私たちも「ニットのお直し」のとても良い勉強になりました。

技術をベースに仕事を考えるとどうしても、速さや数を意識しないと仕事として難しい中、技術と経営をバランスよく行い、自分の生活が最低限潤う方法で仕事をしているのはとても共感が持てました。「ニットのお直し」という仕事は、何もないところから始め、作って売る「ハンドメイド起業」とはまた別の可能性見出せるニッチな需要がありとても面白い分野だと思います。

それもこれも、植木さんのミニマムな考えと、好きなことをして生計を立て、さらにライフスタイルを崩さないというバランスはとても尊敬できる生き方の一つだと思います。

ニットを通じて、様々な職業や考えや想いに触れる機会が増え、今回もまた「ニットキュア」を通じてニットの可能性を再認識することができました。あなたも大切の編み物やお直し着て着たいというニットがあれば、「ニットキュア」を訪ねて見るのも良いかもしれません。

ニットキュア
〒120-0036 東京都足立区千住仲町15-2-602
TEL 03-5284-2198(平日 10~17時)
http://www.knit-cure.com

執筆者 Knittingbird 田沼

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