ニッティングバード

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映画『YARN 人生を彩る糸』全国順次公開中

「編み物」をやり始めるきっかけは、祖母や母親が「編み物」をしていたからという人がとても多いのではないのでしょうか。

僕自身は編み物を実際にちゃんと初めたのはイギリス留学してからで、10年以上も前になりますが、僕にとってこの場所で「ファッション」「言語」そして「編み物」を勉強することは、僕自身の人間形成に多大な影響を与えました。もしかしたらニッティングバード自体が存在しなかったかも。

イギリスで編み物を学ぶことにより、「編み物」は「手仕事や暖かみ、ほっこり」するという一般的なイメージだけでなく、もっと幅広い知識を植えつけてきました。そこでは「編み物」が日本以上に文化的に落とし込まれていて、ニットアウトなんて当たり前だったし、パブや教会、地下鉄などで編み物をしている風景は日常茶飯事。それと同時に、新しい編み物に触れる機会もたくさんあり、伝統と革新が共存する街の名通りにロンドンでの編み物ライフはとても充実したものでした。

そんな時、ロンドンの古本屋で出会ったのが、1999年に開催された横浜美術館の開館10周年記念「世界を編む」展の展覧会カタログ。発売当時、僕は中学生なのでこの展示のことも知らなければ、編み物に興味もありませんでした。日本語と英語両方記載されているこの展覧会カタログにロンドンの古本屋で運命的に出会い、15年以上経った今も大事に持っている。

編み物とアートを知るにはとても刺激的な出会いの一つだったことを鮮明に覚えています。

糸の大切さとアウトプット

この映画の重要なキーワードは「yarn-糸-」。編み物や織物をするために必要な素材です。

編み物のどこが面白いの?と聞かれてたら僕は迷いなく答えることがあります。それは「柔軟性がある!」

編み物が洋裁(布帛)とは、決定的に違うことは、形を作るのに分業化されていなく一人の人間が関わる範囲が広いということです。

工場やテキスタイルデザイナーが生地を作り、デザイナーがその生地を見てデザイン、デザイン画を見たパタンナーが型紙におこすという、分業があるというのが洋裁(布帛)です。

編み物は「糸1本から調理」して編み地の柄や厚みなども決め、編み方でシルエットも決め、最終的に一つの衣服のデザインするという三位一体が他にはない「編み物」の魅力の一つだと言えます。

もちろんそこまで考えるので、編み物(ニット)のデザイナーは、糸のことから、編み方など様々なことを知らなければいけないため、いつになっても知らなければいけないことは尽きないです。

編み物にとって糸は核になる一つ。そんな糸1本から変形自在な編み物という技法を使い、それぞれの表現の仕方をこの映画に出てくる4組のアーティストたちが教えてくれます。

彼女たちはそれぞれが生まれた場所を軸に、その人のアイデンティティの確立のため、編み物を通して人々と繋がっていきます。

単純に着るためのセーターを編むことも趣味としては良いと思いますが、「そこにある問題」を編み物を通して人々に伝え、そしてより良い世界にしようと自己表現をしています。

この映画の冒頭の説明にある「yarn」の動詞としての意味「面白い冒険談をたっぷり話す」というようにそれぞれが三者三様の編み物のアプローチ方法を話し始めます。

世界的なクラフト・ブームでそれでも編み物は「手芸」の枠を超えていないのが現状で、かぎ針編みアーティスト「オレク」氏は編み物を手芸からアートとして認められるために奮闘します。

5歳からものづくりを始めたオレク氏は社会主義の国、人々が開放的ではないことに嫌気がさし、故郷を発ってニューヨークで活動を始める。ポーランドでは認められなかった彼女は、自由な表現を許容するアメリカに行くと、褒めてくれる人がたくさんいて、全てを捨ててここで成功してやると決心をします。

デザイナーは問題解決、アーティストは問題提起という言葉があるように、彼女は公共のスペースで編み物のアート作品を発表し、街ゆく人々をいつの間にかアートの世界に引き込んでしまいます。

アイスランド生まれのティナ氏は「内の仕事を外に出すこと。」という女性の優しく暖かい手仕事の重要性を説いて行きます。

編み物は実際はアートなのに評価が低いのは女性がやっているからと言われるのがとても悔しいと感情的に話します。

彼女の作品は「家に埋もれてた物に光を当ててあげる」という言葉の通り、アンティークの刺繍モチーフにかぎ針を装飾し公共物に編み込むヤーン・グラフィティとしてのアーティスト活動にも力を入れています。

手芸はヨガに近い、一編みは小さいけど、人生みたいに1編み1編みに意味があると精神性を唱えます。

テキスタイルアーティストの堀内紀子氏は高度成長期の日本を3年間調査し、テレビなどが普及したせいで、外で子供同士遊ばなくなってしまったことを危惧し、「遊びは成長に必要。遊びことで落ち着き、賢くなる」と子供が健やかに過ごすためにと、ナイロンの糸で手編みされた遊具を作り始めた。

そこには、子供に対する愛が溢れ、「自分たちが工夫して遊べる空間」を設ける事により子供に寄り添った作品を提供しています。

ネットの遊具で始めて出会った子供たちはいつの間にかすっかり仲良くなってしまうし、「ネットは大きな愛で子供を受け止められる」という堀内氏の言葉がとても印象的でした。

スウェーデンのコンテンポラリーサーカスのーサーカス・シルクールは、「次に進む意味、新しい意味、新しい意味、努力こそ人生の意味がある」と白い糸を人生のメタファーとしてパフォーマンスを見せている。

平和編みと題される「Knitting Peace』という演目は、白一色の糸や編み物で統一され、舞台芸術として編み物に関わる姿は、編み物をしている私たちより「編み物の真理」を知っているのではないかと思うほど美しく表現されている。

映画を鑑賞して出来た二つの夢

僕自身「編み物」の世界に魅了されてこの世界にどっぷりと浸かっている。

ニッティングバードを通して編み物関係の様々な人や物や事に出会い、「編み物」と人々の関係性や、様々な可能性を感じている。

そして、セーターだけでなく、Tシャツや靴下など「編み物(ニット製品)」はすでに私たちの、身近に深く根付いています。

僕たちが私たちが暮らすこの場所、この世界が「編み物」によってより住みやすくなればとても素敵なことだと思うし、「編み物」にはその力があると信じている一人である。

アートと考えると難しくてわからない。という人もいるかもしれないが、難しく考えず映画を見てみれば、あなたの創作意欲を駆り立て、挑戦することの大切さ、人との繋がりを再認識できるはずです。

僕自身この映画見ることで「2つの叶えたい夢」が明確になりました。

1つはこの映画の出演者にいつかお会いして、「編み物」に対する想いを直接英語で聞いていみたいということ。

そして、もう1つは「世界を編む展」のような、「編み物」の世界を体現するような展覧会をディレクションしたいなと想います。

執筆者 Knittingbird 田沼

全国順次公開中 映画『YARN 人生を彩る糸』オフィシャルサイト

映画に出てくる4組のアーティスト

Olek(オレク)

Tinna(ティナ)

堀内紀子

Cirkus Cirkor(サーカスシルクール)


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