前回の「あみかわアミーナで学ぶ編み機のこと」ではあむかわアミーナの道具やパーツについて家庭用編み機と比較しながら解説していきました。今回は実際に稼動させてみて、より一層の理解を深めていきたいと思います。
編めない理由を考察しながら実践編の基礎として、編みはじめ(作り目)と編み終わり(始末)の方法をたくさんご紹介していきます。
編めない理由
編み機を動かして実践編に行く前に、「あむかわアミーナ」のレビューが何故悪いのか仮説を立てたいと思います。
「あむかわアミーナ」は年齢制限や「かんたん!」とうたっているように、「編み機を知らない」「触ったことがない人」でも出来るように設計されているようですが、
家庭用編み機を普段から使い慣れている私たちが使っても失敗することが多々あります。その理由は大きく分けて4つあります。
①テンションダイヤルがついていないため糸の送りが悪く糸がひっかかる。
糸のテンションがうまく調整できないケースがあります。テンションが取りづらいのは事実ですが、説明書にあるように巻き直した玉の状態で糸にテンションがかからないようにしっかりセットしていれば問題なく編むことができます。
②付属に付いている糸自体がアクリルで滑りがよくない。
付属で付いている糸は実際に編みづらいですが、この糸で編めている人もいるので直接的な原因とは考えにくいです。公式HPで推奨する100円均一のウールの糸で編んでみましたが、少しだけ編みやすくなりました。
③キャリッジの滑りが悪い。
簡易的な作りなので、もちろん気になる部分ですがテンションダイヤルと同じでしっかりセットすれば問題なく動作します。キャリッジを動かすときは、浮かさないように気をつけてください。ポイントは、下に押すような力のかけ方で、左右にスライドしていきましょう。家庭用編み機と違い、プラスチックなので軽いのが理由です。力任せに動かすとキャリッジを動かす力で本体も動いてしまうので、足を片手で支え,、もう片手でキャリッジを動かす動作を交互に行うことを心がけたうえで操作に慣れていきましょう。
気になる人はミシン油を少しだけ使ってみても。
④キャリッジの歯車の滑りが悪く、糸の抑えがしっかりしていないので編み出しが作りづらい。
①、②、③に至っては「あむかわアミーナ」が簡易的に作られている事を考慮してしっかりセットすれば個体差があれど失敗することが少なくなってくることがわかりました。
編み機は「編み出しをセットするのにある程度の知識が必要」になります。ミシンとは違い「この知識が必要なこと」が編み機全盛期の後に受け継がれないで廃れていった原因の一つと言われます。
事実、私たちが編み機のワークショプをする際に、参加者には作り目を使って始めることはせず、キャリッジを動かすだけで編み進められるところまでセットしています。
編みづらい原因は、プラスチックなので歯車のすべりが悪いことが挙げられます。そのため付属の毛糸も引っかかりやすく、編み始めが編めないというのが根本的な原因だと考えられます。
家庭用編み機では「スレッド編み」をするためにローラーの位置を変えるスイッチがあり、これをすることで編み出しの際も「糸を抑えられ」しっかりと作り目を作ることで④番のような原因が起きなくなります。
失敗した作り目
「あむかわアミーナ」にはこれが付いていないのでどうすれば良いのかと言うと、編み始めれるところまで行けば「編めない」という問題が大幅にカットできるという見解に落ち着きました。
説明書に載っている編み出しやその他の編み出しのバリエーションを比べながら、私たちが考えたオリジナルの編み出し方法で問題を解決していきたいと思います。
編みはじめのバリエーション
あむかわアミーナの取り扱い説明書に記載されている 編みはじめの方法は、家庭用編み機では一般的ではありません。家庭用編み機の編み始めの方法は何種類かありますが、基本的には捨て編みを行う方法がメジャーです。
あむかわアミーナでは捨て編みをせずにそのまま編み端として使用できる方法が記載されています。
まずは取扱説明書の編みはじめの方法から、そして別の方法を3つご紹介します。
①取り扱い説明書記載の編み始め方法
糸をテンションにセットし、キャリッジにも通します。糸端を約70センチ・3往復分くらいの所にウツシに通します。
1本おきに針の上下に糸を引っ掛けていきます
糸がセットできました。糸はしっかり奥に押しやっておきましょう。
また、糸端は緩むとキャリッジの歯車に巻き込んでしまったり、トラブルの元になってしまうので、タッピ&ウツシをそのままおもりとして使用します。洗濯ばさみやクリップなどで代用してもよいでしょう。
キャリッジを右方向に動かします。丁寧に、キャリッジは浮かないように下に押さえるような気持ちで取り扱うとスムーズです。
1段編めました
続けて数段編んでいきます。1段編むごとに編地を下に引っ張ると安定して編むことができます。目飛びや編み損じがあれば、根気よくひとつひとつ直していきましょう。
数段編めたら両端におもりをつけますが、1段編むごとに下に引っ張る・確認をしていくことを忘れないようにするとよいでしょう。
仕上がりはこのようになりました。編み端にボリュームが出て糸の渡りも長いのでしまりがないように感じます。
②タッピを用いた作り目の方法
下準備として、キャリッジは右側にセットしておいてください。また、針もすべてイラスト編みの位置に出しておきましょう。
まずは一目結んで目を作ります。
タッピで鎖編みを編みます。いわゆる鎖編みの裏山部分に針を編みこんだ状態になります。
2針目も同様に編みくるんでいきます。
同様に続けて編み進めていき…
最後の一目はタッピにある目をそのまま掛けます。
これで編み出しの準備ができました。糸をキャリッジにセットして、編み進めていきましょう。
仕上がりはこんな感じです。①よりも安定性が高く、目も間延びして見えません。
③針に巻いて作る作り目の方法
先ほどはタッピを使いましたが、次は道具を使わずに。本体の針をそのまま利用して編み始めることもできるんです。
下準備としてキャリッジを右側にセットし、針をすべてイラスト編みの位置に出しておきましょう。
糸端を左手に持ち引っ張っていますが、このときに糸端にはおもりをつけておくと片手が空くのでスムーズにトライできますね。
反時計回りに針に糸をかけながら目をつくっていきます。まずは左端の1の針。そのまま2の針にも巻きつけ、1の針のベラの内側に糸をかけます。
ベラ針は後ろに引くことでベラがとじ、ベラの外にかかっている糸の中を通ってループ構造になります。
左端の1の針を下げます。一目編めました。
続いて2の針の下を通って、3の針にも巻きつけ、2の針のベラの内側に糸をかけます。
2の針を下げます、2目めが編めました。
同様にして作り目をつくっていきます。
右端まで繰り返します。最後の一目まで編めたら、糸をキャリッジにセットし、編み進めていきましょう。
斜めに渡る糸は長いですが、すっきりとした仕上がりになります。
編み出し(作り目)の成功率を上げる方法
①〜③の編み出しは作り目が短すぎて、最初から重りをつけれないためキャリッジを動かして針が運針する際に針が浮いて綺麗に糸が編めず1段目から失敗するというケースがあります。
家庭用編み機の場合クシバというアイテムがあり、短い作り目にこのアイテムを使うことで作り目に均等に重さがかかり、作り目の失敗が少なくなります。
簡易的に作るのであれば100円均一で「カチューシャコーム」というのを改造します。
曲がっているカチューシャコームを真っ直ぐ平らにします。
クシ先を半分逆側に折り曲げ(あむかわアミーナの編み機の幅では細かすぎるので)クシ先を減らした後に、クシバの先のようにするためペンチなどを使い先を折り曲げて引っかけるクシ先を作ってください。
この「簡易クシバ」を針と針の間に1クシ以上ひっかるような形で作り目に引っ掛けてください。
針自体に引っ掛けてしまうと編めなくなってしまうので注意が必要です。こうすることで作り目のうような重りがつけられない状態でも、下にテンションがかかり、作り目が作りやすい状態になります。
簡易クシバの左右に重りをつけて、真ん中の重りが足りない部分は手で調整します。
簡易クシバを使うことでバランスよく作り目に重さがかかり、作り目の状態から失敗することなく綺麗に編める確率がグンと上がりましたね。
④別パーツを使用する方法
クシバ等がない場合は①〜③の編み出しではなく、別パーツで使用する方法が一番おすすめです。
クロバーさんから「編み出しテープ」という商品が発売されています。手編みで、あとでほどく作り目のときに重宝するアイテムです。編み出しテープを使うことで最初から重りをつけられ針が浮くことを解決してくれるので「あむかわアミーナ」でも失敗の確率がグンと下がるのが実証済みです。
今回こちらを使用してみましたが、ループと針の間隔が合わず、使えはするもののどうもしっくりこず・・・。
なので、似たような編み出し用のパーツを編んで作ってみました!
かぎ針を使用し、まず鎖編み30目を編みます。1段目は細編み、2段目はリング編み2目細編み1目を繰り返しています。ループが20あるパーツが編みあがります。かぎ針が無い方はタッピをかぎ針風に扱うこともできますが、100均でも手に入るので1本あるとよいですし、これを機に挑戦してみてほしいです。
パーツが編めたら、ループを本体の針に通します。今度はサイズもぴったり針数に対応できていますね。この段階で端にはおもりをつけましょう。
1段目は、実際に編む糸とは別の糸(抜き糸)で編むことで繰り返し使うことができます。抜き糸にはすべりがよく丈夫な糸が適しています。
抜き糸で1段編めたら、実際に編む糸に変えて編み進めていってください。ただし、あとで糸始末に使用する分の糸80センチほどを残して編み始めてください。
編み終えたら本体の編み始めの糸で引き抜き編みをし、抜き糸を引っ張ってはずします。
きれいに編み出しパーツと本体が分かれました。糸始末の手間はかかってしまいますが、編み端の仕上がりもきれいです。引き抜き編みはゆるめに編むことで伸縮性を保てます。
また、このパーツだと最初からおもりも取りつけることができるので、試した中ではもっともスムーズに編み出すことができました。
編みおわり(始末)のバリエーション
さて、いよいよ完成間近。大切な仕上げの作業です。目標段数まで編めたら最後は目をとじていきましょう。
①巻きとじ
説明書にも掲載されている巻きとじという方法。編み終わりはキャリッジが左側にあるようにしてください。
使用する道具は付属のとじ針。通常のとじ針よりもしなりがあり柔らかく、先端も丸みを帯びた安全な形状になっています。
糸を70センチほど残してカットし、とじ針に糸を通します。
巻きとじができたら、針から編地を取っても、もう目落ちすることもありません。
横に伸びた状態(編地が針にかかったまま)で始末をおこなうため、糸の渡りが長く、ぶよんと目立つ仕上がりに。渡りを短くしようと糸調子をきつくすると伸縮性も減ってしまうので加減が必要です。
②針の上で伏せ目
19→20の順で目を移し、19の針に2目をかけます
19の針に糸を右側からかけ、針を引き2目をいっぺんに編みます。
この動作を繰り返して目を減らしていきます。
最後は2の針で終えます。これで針の上でおこなう伏せ目の完成です。
①と比べると糸渡りは少なくぎゅっとした仕上がりになりました。
③捨て編み→引き抜き編み
捨て編みという必要目数よりも余分に編み、余分な部分はあとでほどく方法です。
まずは必要段数まで編みます(紫部分)。糸を変えて6-~10段ほど捨て編みをおこないます。捨て編みが編めたら糸をキャリッジから離し、一度キャリッジを動かします。そうすると楽に編地が本体からはずれます。
糸端が右側に来るように編地を持ち、捨て編み部分を折り返し、かぎ針を使用して引き抜き編みをおこないます。本体部分の最後の段の目は、捨て編みと配色になっているので拾う目もわかりやすいですね。タッピを使用して同様の始末も可能です。道具は異なりますが、同じ仕上がりになります。
伏せ目が終わったら、捨て編み部分の別糸を解きましょう。
糸わたりも少なく、鎖編みのループで始末されているため、丈夫で伸縮性がある仕上がりになります。
④タッピに目を取ってから伏せ目
キャリッジは左側で編み終わり、右端の目から順番にタッピに移していきます。
すべての目がタッピに移りました。2目ずつ糸をかけながら引き抜き編みをしていきます。ぎゅうぎゅうになってしまうので始めのうちは正直やりづらいです。
仕上がりの見え方は②③とたいした差はありませんが、捨て編みをしない分 エコな始末になりますね。ただし、編み目の順番を間違えたり、目を移す際に落としたりしないように注意が必要です。
編めない原因と 編めるようになるために
作り目と始末の様々なバリエーションをご紹介しましたが、「編み出しの部分(作り目)」がとても大切だと伝わったでしょうか?
編み出しの時に編地を下に引っ張る力があることで、作り目から→最初の一段を編むという動作での失敗がなくなりレビューにあるような(最初から)編めないという問題のほとんどが解決がすると思います。1段目の失敗を繰り返してしまう場合は、キャリッジを動かし運針して編むのではなく、手動で針を動かして重りが付けられる長さまで慎重に編み進めるのもひとつの手です。
ただ闇雲に練習してても意味がなくなってしまうので、今回問題にあげた点を参考にお子さんだけでなくお母さんが一緒になって、問題点を意識してみればより楽しんで編み機を使えるようになるのではないでしょうか。
ご紹介した編み始めと編み終わりのバリエーションと併用して、ぜひ実践してみてください。
1本の糸から、間違えてもほどいて何回でもやり直しができるのがニットの良いところであり、好きなところです。何度も失敗をして、修正をして、根気強く学んでいってほしいと思います。
あむかわアミーナ実践編はまだまだ続きます。次回更新をどうぞお楽しみに。
執筆者 Knittingbird 坂田/田沼