この記事は「あむかわアミーナで学ぶ編み機のこと」と「あむかわアミーナ きれいに編む方法を解説 実践編 vol1」の続きです。この二つの記事を読んでいただけるとより理解が進むと思います。
編み機のこと、すこしずつご理解いただけていますか? やってみたい!と実際にお声掛けいただくことも増え、先月に行なった自由参加のワークショップも幅広い年代の方に楽しんでもらえてとても嬉しかったです。今後もできる限り、触れる・学べる機会をつくりたいなあと思う今日この頃。
さて、あむかわアミーナ徹底解説も3.回目。今回は最大の売りともいえるイラスト編み(ジャカード)を解説&実践していきます。
イラスト編み(ジャカード)とは?
2色(同じ色を2本で使う場合もある)以上の編み込み柄をジャカード/Jacqardといいます。ジャカードには様々な種類があるのですが、手編みや家庭用編み機の場合は‘シングルジャカード’と呼ばれる技法になります。
家庭用編み機でジャカード柄を出すには、パンチカードという柄の通りにパンチングされた(穴の開いた)付属品を使用し、針の選定も自動的に模様が編める仕組みになっています。また、キャリッジに2箇所糸をセットすることができるので、往路のみで一気に2色・1段が編めてしまいます。
あむかわアミーナではこのパンチカードが、穴は開いておらずピンクとブルー1 で色分けされた「イラストシート」という名称になっており、針の選定は手動で行います。あむかわアミーナのキャリッジには糸を1色しかセットできないので、2色・1段を完成させるためには往路を2度編まなくてはいけません。しかし、キャリッジは往復で1セット。さて、どのようにしてジャカードを編んでいくのでしょうか?早速実践していきましょう。
イラスト編みを編んでみた
付属の毛糸も2色あるのですぐに実践できますね。パステルブルーとラベンダーのゆめかわいい配色です。
市販の毛糸を使用する場合は、ふわふわ・もこもこなファンシーヤーンは避け、ストレートヤーンの合細~中細くらいの太さが適しています。
まずは地糸を説明書に倣ってセットし、通常の天竺組織を10段ほど編み出します。付属の糸は太めでやや編みにくいので、テンションを緩めるために、今回は②には糸を通さずに行ないました。
ここまで準備ができたら、いよいよイラスト編みの始まりです。
左のテンションに配色糸のラベンダーをセット。地糸のパステルブルーの糸はキャリッジからはずし、邪魔にならないように休めておきます。
キャリッジにある切り替えつまみを「★」平編みから「♡」のイラスト編みに変更することを忘れないでくださいね。カチッとしっかりした音がします。
イラストシートを差し込み口にセット。右端のピンクのシート送りダイヤルを回して、シートの1段目に合わせます。そして、シートストップレバーを「とまる」から「おくる」に切り替えておいてください。
地糸のパステルブルーは青い●、配色糸のラベンダーはピンクの●に対応します。1段目と2段目は⑥の針から⑬の針までがピンクの●印になっていますね。イラストシートと対応する針を手動で「イラストあみ・あみはじめ」の位置まで針ローラーを動かします。
針がセットできたら、左から右にキャリッジを動かし、1段編みます。
「イラストあみ・あみはじめ」の位置まで出した⑥から⑬までの針が、配色糸で編めました。針を出していない箇所は、編めずに糸が渡っているのがわかりますね。
続けて2段目。同様に針を出し、キャリッジを右から左に動かします。
イラスト編み2段目が編めました。2段分配色糸で編んでいるので切り替えの部分に隙間ができやすくなっています。
続けて3段目と4段目を地糸で編みます。青い印のついている①から⑤、⑮から⑳の針を「イラストあみ・あみはじめ」の位置まで出し、キャリッジを動かします。
4段目も同様に針を出して編みます。
糸を休めるときは、説明書に記載があるように2色とも左足を通って裏側にある糸休めにかけるのも良いですが、絡まりやすく難儀でした。テンションの左にかけた糸は左足に・右にかけた糸は右足に、と別々に休めておくと絡まる心配がありません。
少しずつ編めてきました。この調子で柄が終わるまで編み、切り替えつまみを「♡」から「★」平編みに戻し、数段編んでから糸始末をして、完成です。編みあがったらスチームアイロンをかけて編地を整えてあげることで編み端の丸まりも緩和され、より均一ではっきりとした柄になります。
パンダ柄のイラスト編みが完成しました。色合いにメリハリが無かったのが残念ですが、なかなか良い仕上がりです。しかし、柄の境目がやはり気になりますね。
水玉柄。角ばっていて丸みが無く、いびつな仕上がりになってしまいました…
オリジナル柄をつくろう!
編みたい柄がなければ、作ってしまいましょう。A4サイズのコピー用紙に等倍でモノクロコピーをし、そこに好きな柄の印をマーカーでつけていきましょう。ドット絵のような考え方でよいのですが、一目は正方形ではないため、想像よりやや縦長に仕上がることを考慮しておくのがポイントです。また、あむかわアミーナでのイラスト編みは往復で1段の考え方なので、かなり大柄になってしまいます。
ななめストライプ柄。左上の見本のドットよりも斜度が緩やかな仕上がりになってしまいました。
では、より繊細な柄を表現するには?多少の手間はかかりますが、不可能ではありません!往復をセットとして考えず、往路と復路に分けて編むことで解決します。
自作したイラストシート。今回は、比較のために先程編んだ ななめストライプの柄をリメイク。コピーして上からマーカーで書き加えているので見にくいですが、色を頼りにします。2段ごとではなく1段ごとに切り替えることでよりシャープな柄を目指しました。
まずイラスト編み1段目を配色糸で編み、右にキャリッジがある状態で糸を休め、キャリッジをはずし左側に移動させます。
キャリッジを2段ごとにはずし、位置を移して糸を掛け直し、1段ずつ丁寧に編み進めていきましょう。
2段編めたところ。境目の隙間も目立ちにくくなりました。
キャリッジを移動させながら編み進めていきます。
地糸/往→ 配色糸/往→ 配色糸/復← 地糸/復← のように動かしていくとキャリッジ移動・糸替えも最低限で済み、スムーズに編み進むことができます。
イラストシート通りでなくとも、1目ごとに自由に柄を描けることがわかりました。斜めの傾斜も45度のストライプになり、よりシャープな柄になり満足です。しかし、柄の切り替え位置の目と裏の糸渡りが目立っていますね。
1目ごとのブロックチェック模様。こちらはイラストシートを使わずに、奇数針と偶数針に分けて交互に編み進めています。⑬針のベラが曲がってきており、うまく編めていない箇所はご愛嬌…
キャリッジを物理的に移動させることで、1段ごとに配色を切り替えることができるようになり、このような細やかな柄も編むことができるようになりました。この手法ならノルディック柄も素敵に仕上がりそうです。
ちなみに、アルファベット・数字・!・?の柄は、タカラトミーの公式HPからダウンロードできるようになっていますよ。ロゴやイニシャルを編む際に便利ですね。
美しく仕上げるには?
何度か編むと、気になるポイントやコツが掴めてきます。実践を経て気になったポイントとその解消法をご紹介します。
・糸端と境目を緩ませない方法
糸を替えたらその都度糸をしっかりと引きテンションがかかるようにしてください。テンションから糸がはずれることも多かったので、毎度確認してから編み進めてくださいね。これで端の目の緩みも和らぎますが完全には解消できませんでした。
・裏の糸わたりの解消法
シングルジャカードといえば裏の糸が渡っていることが最大の特徴でもあります。柄によっては裏目側も面白いので、あえてこちらをデザインとして表に使用することもあります。
編んでいるときはぴんと張っていますが、機械からはずして整えると、編地は縦に伸びますよね。なので、糸の渡りが緩んでもっと目立ってきます。ひっかかりそうなのが気になる方は多いのではないでしょうか? このままだと正直ちょっと実用的ではありませんよね。
そんなときは、タッピの出番です。
タッピ返しの要領で、編みながら糸の渡りを編んで短くします。柄にもよりますが、3目くらいの間隔でおこなうと仕上がりがきれいです。このように裏糸の渡りを編み止めることを‘裏目立て’といいます。機械にかかっているときは糸がピンと張っていてちょっときつそうに見えますが、編み機からはずして最終的に整えると問題なく仕上がります。
手作業なので均一に整えるためには経験が必要ですが、これなら引っかかりの心配も半減しますよ。柄の裏も編まれることで見た目も整ってすっきり見えます。数箇所編まれることで糸が引っ張られ、柄の境目の緩みも同時に緩和されました。編まれてループの構造になることで伸縮にも対応できるようになり、一石二鳥なのでオススメです。
上)始末なし
下)始末あり(裏目立て)
編まれた分の糸が引き締まって、裏の糸渡り部分だけでなく表の柄にも良い影響がでました。
裏糸渡り比較まとめ
裏の糸渡りの解消方法がほかにもがないか。実験してみました。端の目だけ配色にし、中央はあえて長距離糸が渡るように編んでみました。
①始末なし
ここまで長い糸渡りはもはやデザインなのでは、と思えてきます…。
②渡っている糸を針に引っ掛け編み込む
中央を編むときに、数箇所渡り糸が針の上を通るようにひっかけてみました。
キャリッジを動かして1段編んだ後。このように糸が編みこまれて、渡りの距離がぐっと減りました。
表側。糸を引っ掛ける箇所が多かったので、ループの隙間からたくさん見えてしまいました。これでは柄の邪魔になってしまい、本末転倒です。編地は厚みを増すので、あえてこのようなテキスタイルをつくるのはありだとおもいます。
裏の渡りは解消されています。うろこのような糸渡りが面白いですね。
引っ掛ける針を減らしてみました。表に響く箇所は格段に減っていることが見て取れますね。今回使用した糸が、地糸よりも裏に渡る配色糸のほうが太いことも目立つ原因のひとつでしょう。配色糸を細いものに替え編んでみたのが上部のグレーの部分です。編地中央部分、縦に筋が若干あるものの、かなり見えなくはなりました。
裏側。糸渡りの距離は短く、実用性も増しました。
③タッピで裏目立て
表側。もちろん表には影響はありません。
裏側。タッピで裏目立てをしています。中央が美しく編めなかったのが残念ですが、大抵は編んだ跡編地を均一に揉んだり引っ張ったりして整えた後にスチームアイロンで整えることで仕上がりが良くなります。
やはり裏目立てが裏糸の渡り解消には適しているようです。②の糸を針に引っ掛けて編み込む方法は「スレッド編み」と呼ばれる編み機特有の技法の応用になっています。編み機に通らないようなファンシーヤーンもこのように添えることで一緒に編みこみができ、糸自体の魅力が引き立つ編み方なので、覚えておくと役にたつかもしれません。
実践してみての感想と考察
慣れてコツが掴めてくると、スピードもあがり楽しくイラスト編みに取り組めました。ですが、 この程度の糸の太さ・目数ならば、棒針編みで模様を編み込むのと時間も手間もたいした差は無いのでは?とも正直思いました・・・。特に慣れるまでの段階で躓いてしまう方が多いのにも残念ですが納得がいきます。あむかわアミーナの最大の特徴であるイラスト編み、もっと手数が少なく、且つ、美しく仕上がるようになっていると、わかりやすくお子さんでも楽しめたのではないでしょうか。ここから手編みに挑戦~と流れたら嬉しいですが、これで編み物を嫌いになってしまわれては悲しいです。直接教えに出向きたいくらい!(笑)
とっつきにくく感じる機械ですが、仕組みが理解できてくると自由度も格段にアップしてくることもお解かりいただけたのではないでしょうか。おもちゃ故の拙さはありますが、しっかりとした編み機の構造にはなっているので意外とできることはあるなあと思っています。もちろん、それなりの知識が必要になってきますが、経験を詰むことで十分にカバーできますし、学びとはそういうものだと改めて感じました。本体に負荷のかからない程度に根気強くいろいろと試してみてはいかがでしょうか。
次回は取扱説明書には載っていない裏技的テクニックをたくさんご紹介していきますね。せっかくなので、最大限に遊びつくそうと思います!あむかわアミーナの可能性がぐっと広がることでしょう。どうぞお楽しみに。
written by Knittingbird/坂田