今年の3月に40周年を迎えた、大阪は南森町・大阪天満宮の近くにお店を構える 日本でも珍しい 手織り用品の専門店「ておりや」さん。
その名の通り、手織りに関するモノゴトはもちろんですが、糸・編み・それに関する書籍など品揃えは 幅広くクラフトファン必見のお店になっています。
今回は 店主の加藤 淳子さんにお話を伺ってきました。
織物との出会いとこれまでの歩み
独学で織りを学ばれ、1977年に創業に至った加藤さん。織物に興味を持ったのは高校生のころ、学校の授業で織物の組織の基本を紙で再現したものが面白かったことがきっかけになっているそうです。
お店のスタートはふとしたご縁と勢いだったけれど、最初からこうなることが決まっていたのでは―― 、と思えるような必然を感じるような出来事も多くあったのだとか。
加藤さん:
「糸という‘線’が‘ 面積’をもつことの面白さ にすっかり魅了されてしまって。
もっと気軽に織りを楽しんでもらいたくて、小さなスペースを間借りしてオープンしたのがはじまりです。
お店ができてからも、いろいろと足を運んで勉強させてもらいました。閉店後に京都の機屋さんに通って道具の話を伺ったり、昔の西陣の話も遅くまで伺ったり・・・。当時はまだ珍しかったカードウィービングも気になって、東京の先生の元に学びに行ったりもしましたよ。
常に前向きに行動して、気がつけば40年が経っていた、という感覚ですね。」
普段 編み物情報にはアンテナを張っているつもりでいましたが、こんなに近くに住んでいたのになんでいままで知らなかったのか!と悔やむほどの魅力溢れるお店です。気になる素材もたくさんあって、嬉しい悩みに直面してしまいました・・・。
織物だけに留まらず、ここまでの幅広い品揃えを誇るほどになったのはなぜでしょうか?
加藤さん:
「‘ものをつくる’ということがベースなので、織りから始まったお店ではありますが 歴史を積み重ねていくうちに、自然と今のような形に広がっていきました。
繊維・素材という点ではみんな同じ。糸によって多少の向き不向きはあるでしょうが、好みにもよりますし、あえてそのデメリットを活かすこともできますよね。一見 編みには難しいような細番手の糸も、素材感を気に入られて 引き揃えて編まれる方も多くいらっしゃいますよ。
ご自身が何をつくりたいかに合わせて、たくさんの素材の中から自由に選んでいただけたら、と思っています。 」
素材をどう活かすかはつくり手の自由、そんなあたりまえのことを再認識させられました。自由に創作を楽しんでほしいという想いをもって進んできたからこそ、魅力的な提案ができるお店になっているんですね。
惜しみなく伝授する織物教室
2階にはさまざまな大きさや種類の織り機がずらり。ここでは手織り教室も開催されています。
加藤さん:
「基本的にはやりたいことを形にする方法や技術をお伝えしています。なにをつくりたいのか、その気持ちがいちばん大切です。」
現在は4~50人の生徒さんが学ばれており、中には10年以上通われている方もいるのだとか。つくりたいもの、表現したいもの、それぞれの創作性に応じて丁寧にご指導くださります。
基本の平織りからじっくり学ぶ 初級コースからあるので、初心者さんも安心して挑戦できますよ。糸から布へ、世界にひとつだけの作品 を時間をかけてつくる楽しさ、一緒に経験してみてはいかがでしょうか。
有志の生徒さんたちによる展示会を開催したことも。切磋琢磨し合える環境も、学びに必要な要素のひとつですね。
カラーバリエーションも豊富なオリジナル糸たち
紡績業の厳しい状況と戦いながら、30年以上つくり続けているオリジナル糸。現在までに40種類を超える品揃えになっていますが、そこにはどんな思いを込めているのでしょうか。
加藤さん:
「スタートは‘こんな糸があったらいいな’という素直な好奇心。
綿、麻、シルク、ウール などの天然素材を中心に取り揃えています。一般的にあまり流通しないようなものでも、素材としての面白みがあれば企画をしています。」
「また、常に安定して供給できることを第一に考えています。長いものでもう30年ほど定番として続いている糸もありますよ。それに加えて毎年 限定の糸も出しています。」
あの糸が使いたい!そう思ったときにいつでも手に入るという安心感は、作り手にとって 非常に有難いことですよね。
糸業界がどんどん衰退してしまっていて、つくれなくなった素材や つくる場所を変更せざるを得なくなったものもありますが、品質を落とさないように妥協せずに 納得のいくクオリティを求め生まれた糸たちからは、力強い魅力を感じずにはいられません。
そして、種類だけでなく カラーバリエーションも豊富で、多いもので40色を超えるラインナップ。好きな素材で好きな色が必ず見つかる、そういっても過言ではないほどの品揃えになっているのも嬉しいですよね。
手編みにオススメの毛糸
そんな「ておりや」さんのオリジナル糸。たくさんある中からKnittingbird的おすすめの糸をピックアップしてみました。どれも魅力的で絞るのが難しいですが・・・!
オリジナルリネン
リネン100%
リネン特有のシャリ感としなやかさを持った糸。ミドルゲージで清涼感があるので、サマーセーターやベストなどの夏のニットウェアを編んでみたいな と思いました。編み針の参考サイズは6~8号針で編みやすい太さなのも嬉しいです。
ナチュラルスラブ
ウール100%
このナチュラルな色合いとふんわりとした手触りのソフトさにきゅんとしちゃいました。なんにでも・だれにでも似合うであろうこの素材は、選んでも押入れに眠ることがないはず。スラブヤーンの凹凸のおかげで、シンプルにメリヤスを編むだけで味が出るので、秋冬に向けて棒針編みに挑戦してみたい方にもおすすめですよ。単糸と3本撚りの太さが選べるのも嬉しいですね。
オステルヨートランド社の糸
「オステルヨートランド羊毛紡績」とは、スウェーデンのオステルヨートランド地方にて、ボリエとウッラ・カーリン夫妻が1981年に創業。国内のグッドデザイン賞を受賞した羊柄の毛布など、独特の製法と良質の原毛だけを100%使用した製品づくりには定評があります。そんな職人の経験と勘を活かし紡績された美しい毛糸を輸入販売しています。(――ておりやHPより抜粋)
スウェーデン製だからこその鮮やかで美しい色の移り変わりに目を奪われる「オステルヨートランド社」 の糸。シンプルに編むだけで引き立つ色彩と質の良さを、一度 試してみてはいかがでしょう。
ワークショップやイベントも
ワークショップスタジオでは、林ことみさんや小瀬千枝さん、下田直子さん、風工房さん など編み物の書籍でもおなじみの先生方による講座も開催され 人気となっています。
「ておりや」さんの糸は、作家さんからも信頼は厚く「毛糸だま」などの雑誌や、作家さんの書籍にもよく登場しています。
そんな書籍に掲載された作品の中には、材料のみのセットとしても取り揃えられていますよ。
「ておりや」オリジナルキットも豊富!
糸の魅力が引き立つデザインの編み物キットやニードルフェルトのキットも多数ご用意してあります。つくり心地もよい素材だと、いつもよりちょっぴり豊かな時間が過ごせそうでわくわくしちゃいますね。
季刊誌「te.」
現在までに63号まで発刊しているオリジナルの季刊誌。(ておりやクラブの会員の方には無料でお届けしています)
1冊20ページの冊子ですが、内容がとっても充実していて、読み応えたっぷり!
加藤さん:
「手仕事を愛する私たちから、編み物・織物だけにとどまらず、様々なクラフトに関する情報を、幅広い範囲で、国内外からお伝えしたい。そんなておりやの思いから『te.』をお届けしています。」
テキスタイルアーティストやニット作家などへのインタビュー&作品紹介、催しのリポートや国内外の幅広いクラフト情報、手作りのヒントなどなど、ぎゅぎゅっと詰まった読み物にはおもわず拍手を贈りたくなるほど・・・!まだまだ知らないことばかりです、手仕事の世界の奥深さを改めて感じました。
最近のものを数冊拝見しましたが、創刊号からじっくり読んで学びたい、そう思える書籍でした。バックナンバーをすこしずつ集めようと目論んでいます!
自主企画ツアー『北欧クラフトの旅』
関西国際空港の開業時からはじまり、20年もの間 スウェーデンへのツアーを催行しました。
加藤さん:
「ありふれた観光ツアーをしたいのではなく、テキスタイルを中心に北欧の文化に触れてみたい。そんな旅行がないならば自分たちで企画しよう!と思い、初めての企画を告知したところ30名以上の方からお申し込みをいただいて、ちょっと驚きました。」
そんな経験からすっかりスウェーデンにはまってしまった加藤さん。毎年ツアーを開催するなかで「オステルヨートランド社」や「ヴェヴマガジネット」の編集長と出会い、創業30周年を記念に大阪国際会議場にてイベントを開催し大成功を収めるなど、さまざまな人との出会いが広がって現在に至っています。
これからのこと
加藤さん:
「昔と比べると、なんでも安く手に入るせいか、ものづくりをする方の絶対数が減っていますよね。どうしたらそこに直接的なアプローチができるかはわからないけれど、わたし達はただ、良い物や面白いと思ったモノゴトを発信していくことしかできません。そこから興味を持ってもらえたり、やってみたいと思ってもらえる方がひとりでも増えたら、嬉しいですね。
『ておりやに行けば、いつもの糸が手に入る。欲しい糸が見つかる。 』そんなお店にしたいというという想いは変わりません。お近くへお越しの際は、ぜひお立ち寄りください。」
信念を持ってまっすぐに進む 加藤さんの姿勢からは、今までもそうやって乗り越えてきたのだろうなあという気概と逞しさがありました。
移ろいゆく時代の中で、長い間継続することの大変さは計り知ることができません。追いつくことはできないけれど、私たちも見習って、何十年と歴史を積み重ねていけたらなあと感じる出会いの1日でした。
3階はオフィス。外観や建物も随所にセンスのよさが光ります。店内は品質のよい素材とじっくり向き合うことができる、学びの多き空間になっていますよ。
まずはWEBから、そして店舗へ。ぜひ足を運んでみてくださいね。
「 ておりや 」
〒530-0041
大阪市北区天神橋2丁目5-34
TEL 06-6353-1649
FAX 06-6353-5808
10:00〜18:00 【shop・office】
(定休日:日曜・祝日・第2・4・5土曜日)
執筆者 Knittingbird/坂田