みなさん「ウール(羊毛)」の洋服は着ていますか?
今回は私たちの身の回りでも身近にある天然素材として「羊のありがたみを考えながら」様々なことを考察していきたいと思います。
今回も前回の「モヘアがなくなる?繊維業界の未来はどうなるの?!」という記事と同様、ウールの生産に関する問題について考えてみました。
世界の羊の生産量と消費量
今現在、全世界で毎年約114万トンの羊毛が生産されています。
その約22.8%がオーストラリア、15.7%が中国、9.8%がニュージーランド、2.3%がアルゼンチン、そして2.3%が南アフリカからのものです。(出典:IWTO市場情報、第13版)
国別の消費量を見てみると、中国そしてアメリカ合衆国の次に日本が上がります。人口比から考えると、一人当たりの消費量は日本が一番のようですね。羊毛の自給率が低い私たちが世界で一番使っているとは思ってなかった人が多いのでは?
ミュールジングウールってなに?
「ミュールジング」とは子羊の臀部や陰部のシワに糞がたまりやすくウジ虫がわいてしまい、それを阻止するために無麻酔で皮膚や肉の一部を切り取る行為のことを指します。
イギリスでは早くから廃止になっており、ニュージーランドではメリノ業界が2010年12月までに自主的に廃止、国をあげて「ミュールジングウールの禁止」を2018年10月1日に執行しました。
良品計画(無印良品)のH&M、アバクロンビー&フィッチ、GAPなど多くのブランドが「ノンミュールジングウール」しか使用しないことを決めています。
ミュールジングが生まれた経緯
生産性を考え品種改良を重ねた結果「ミュールジング」のような悪しき習慣が生まれとされています。
綿羊と呼ばれる(羊毛を取るための家畜としての羊)は、他の毛が生えている動物のように、自ら体温調節のために毛を抜けるという行為をすることが難しくなっています。
よって、羊毛を取るために育てられている羊たちは毛を切らなくては生きていけない体になってしまっています。
数年前にニュージランドで話題になったニュースで、「6年間以上逃亡していた羊」は、とんでもない長さまで毛が伸びており、暑さをしのぐために洞窟内で生活していたと記述されています。
また、オーストラリアに生息する約75%に当たる羊がメリノ種といわれています。
このオーストラリア産のメリノウールがミュールジングされている代表的な羊で、シワが多くその分、毛の量もより取れるように改良しています。
シワが多くなったため皮膚面積が大きくなっているため、よれた臀部や陰部の部分にウジがわきやすく、シワが主な原因とされています。
またウジが湧きやすいのも、オーストラリアでの気候や生態系も関係しているとされています。
オーストラリアでは未だに規制がされていない
ニュージランドでは禁止になりましたが、生産量世界一であるオーストラリアでは減らしていくという表明の後に撤回、まだこれといった規制はできていません。
それでもオーストラリアの羊農家の中には麻酔ありでミュールジングを行ったり、「ノーミュールジングウール」を努力している農家もあります。
普通毛刈りは年間に一回行われます。「ノンミュールジングウール」の場合、年間に毛刈りを2回行うことで、毛が短く保たれるので羊の肛門や淫部まで伸びて虫がつきにくくなります。
ただこの方法では、「毛を短い間に2回とるので」高品質な長い毛足の羊毛が取れないのでオーストラリア産のメリノ種の特性は最大限にいきません。
ヒゲタ醤油が開発した羊の毛を抜けさせるクスリ
ヒゲタ醤油の応用微生物事業では、「上皮細胞成長因子(EGF」と呼ばれるアニマルフリー(動物由来原料フリー)の研究開発と販売をしています。
ネットを被せた羊に注射すると、一時的に羊毛の生育が止まり、数時間から数日とかからないうちに皮膚と毛の接合が弱まり、ネットを引っ張ると簡単に抜けるようになる仕組みです。
オーストラリア国内の一部の農家で試験的に使われ、効果も絶大で、薬の副作用も少なく毛刈りの重労働からも解放されるというので高評価を受けていましたが、コストが高く実際に大量生産されることはなかったようです。
ミュールジングの問題にも応用できそうな薬だったので量産化までいかなかったのはとても残念です。
実際に羊毛を作るということは、羊たちに負担があり、人にとっても重労働であるので科学の力を使って人と動物の良い関係を築けるような取り組みをしている企業もあることを忘れてはいけない。
「代替案」を考え、徐々に移行する。
生産量世界一であるオーストラリアは国としても重要な収入源を止めることは難しいだろうが、時代背景的に何かしら策を提案する必要があると考えます。
また、企業として「モヘア素材の使用を中止」をするよりも先に「ミュールジングウール」を使用しないことが重要になっているのではないか。
すぐに廃止をしていなくてもサプライヤーに対して「ミュールシング」を行う農家からの調達を廃止していくよう指示している会社も増えてきました。
「ミュールジングウール禁止」を表明するのが難しいのは、世界にオーストラリア産のメリノウールの需要がたくさんある事実と、品質が評価されてい事実もあります。
オーストラリア産のメリノ種は白度が最も高い(原毛から白いのでそのままの色味も良く、ブリーチをせずに染めることができる)羊毛で、 伸縮性や弾力性にも優れていて最細のウール素材を作ることが可能です。
消費者である私たち自分自身が「生産の過程」や「事実」を知り、「エシカル」や「サステイナブル」の意味を考え、議論をすることが大切な一歩目だと思い執筆しました。
あなたの考えはどうでしょうか?
Knittingbird 田沼
モヘアがなくなる?繊維業界の未来はどうなるの?!という記事では、2018年8月に話題になった「南アフリカの牧場作業員がヤギを虐待する映像」が出回り大手アパレルのH&MやGAPなどがモヘア素材の使用を中止を表明、ファーストリテイリング社(ユニクロ)も2020年までに中止する方針を決めたことについて考察しています。
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