ガンジーセーター(ガーンジーセーター)はガンジー島で生まれたフィッシャーマン(ズ)セーターです。
ガンジーという言葉は「ガンジー島」から生まれたことになっていますが場所によっては別の名称もあり、その当時明確に「セーター」という単語がなかった時代なので、現在では丸編み生地を指す「ジャージー」なども「ガンジー」と同じセーターの一つとして呼ばれていました。
フィッシャーマンセーターといえばアラン諸島で生まれた「アランセーター」も有名ですが、ガンジーセーターはその「元祖」として漁師たちの濃紺色のユニフォームとして着られていました。
漁師が着ていた元祖フィーシャーマンセーターの糸は防水・防風対策で羊の脂を残した原毛が使われたり、「強く撚られ」ていて、さらに編み目をできる限り詰めてギチギチに編まれていることから「シーメンズ・アイアン(船乗りの鎖)」と呼ばれていました。
現代のセーターは着心地や値段を優先するために甘撚りで軽くするための工夫がされていますが、実用性を兼ねた「機能美」を優先するためにガンジーセーターは違う工夫がされていました
ガンジーセーターのカタチとディテール
ガンジーセーターは全てのフィッシャーマンセーターの元になったと言われていて、直線で作られたとてもシンプルなセーターです。
とてもシンプルな作りですが、現代のセーターには見られない特徴的なディテールもあります。
普通のセーターにはない一番の特徴として、両脇部分に「ひし形のマチ」(ダイアモンドガゼット)、襟ぐりの両肩部分に「三角のマチ」がついています。
このダイアモンドガゼットと三角マチは運動量を上げたり着脱しやすいように作られていて、布帛のシャツでよくみる「ガゼット(補強布)」(前後身頃を縫い合わせて、脇の裾部分につけられた五角形の布)とは違います。
また漁師が、明かりが少ない船の上で着る時も「前後を間違えないように」、前さがりと後ろさがりはついてなく、前後間違えて着ても問題ないように平面的に編まれています。
袖ぐり部分のディテール
袖部分にはダイアモンドガゼットと、袖ぐり部分に2目ゴム編みのディテールがあり、身頃部分には一部ガーター編みのデザインが入っています。
裾部分のディテール
袖口は普通のセーターと同じでゴム編みの構造になっていますが、身頃の裾はガーター編みで出来ています。
また、襟や脇のマチと同じで運動量を上げるためや、腕の上げ下げでの腹のたるみを持たせないために裾の両サイドに「スリット」が入るデザインになっています。
ガーター編みのすぐ上に袖ぐりと同じ「2目ゴム編み」のデザインが入っているものもあります。
胸元に裏天竺や鹿の子編みで柄をあしらったデザインの「ガンジーセーター」も存在します。
また年代が新しくなればなるほど、透かし柄や縄柄などをあしらった「ガンジーセーター」も見つかっています。
表天竺をベースにして、裏目をところどころ使っている(凹をデザインする)のが「ガンジーセーター」であり、裏天竺をベースにして表目の交差柄を使っている(凸をデザインする)のが「アランセーター」であり、年代によってアランセーターに近いデザインを彷彿させるものがあるのも面白い発見です。
アランセーターの原型が「ガンジーセーター」
同じフィッシャーマンズセーターの一つであるアランセーターは「ガンジーセーター」が元になって進化したセーターの一つだと言われています。
チャネル諸島の一つガーンジー島の濃紺のシンプルなガンジーセーターが、アラン諸島に渡り独自の進化を遂げます。
漁師(フィッシャーマン)が着ていたセーターですが、アランセーターの元祖は「生成り」色で労働着としては着られていませんでした。
アラン諸島でおこなわれる15歳の成人式に「生成りのアランセーター」着ていたという文献もあり、現代ではアランセーターの方がフィッシャーマンセーターとして一般的に認知されていますが、凹凸の違いなど以外にもそんな歴史があるんですね。
イギリス軍にも採用されていた!?
ロイヤルネイビー(王立海軍)の支給服の中にガンジーセーターを着ていた時代があります。
左右に「赤」と「緑」のデザインがあるのは、方位がわからなくなった時に確認するための決まりがあったとされています。
今ではすっかり一般的となったガンジーセーター
今では以前紹介した、ロピーセーターやカウチンセーターと共に、今を着るファッションアイテムとして一般的なセーターの一つになってきました。
アランセーターの方がニットアイテムとしてはメジャーで見ることも多いと思いますが、ガンジーセーターの元祖フィッシャーマンセーターの一風変わったディテールを見ると現代のニットのデザインに落とし込んで新しい「ガンジーセーター」のデザインを考えたくなりませんか?
何気なく編んでいる「手編みのセーター」にも影響されている伝統的なニットやその歴史があるかもしれません。
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