手編みでも機械編みでもよく使う編み込み模様の「ジャカード」や「インターシャ」という専門用語は知っていますか?
名前の意味だけでなく、それぞれの編み地の厚みや、編み方の特性を掴むことで「ニットデザイナー」も「編み物をしている人も」よりデザインの幅を広げられます。今回はジャカードの種類からインターシャとの違いを丁寧に説明していきます。
*ジャガードと間違って呼ばれますが正式名称はジャカードです。これはRadioがレディオでなくラジオと日本語として呼びやすいように変形して言ったのと同じ理由だと推測しています。
●シングルジャカード●
『シングルジャカード』は❶段で2色以上の糸を使用して編んだ場合、一方が編んでいる場合にもう一方が後ろに糸が渡る一番オーソドックスな編み込み模様の表現の一つです。普通の天竺編み(表メリヤス)より伸縮性がなくなり、裏糸は表側に響かないので綺麗な編み柄に仕上がります。フェアアイル柄などの細かい柄に向いていますが、糸渡りには長さの制限があるので長すぎると、引っ掛けて柄自体が吊ってしまうので色柄に規制が生じます。
一般的には糸渡りの幅は「2c〜3c」が相場と言われ、婦人服でシングルジャカードのジャケットやコートを作る場合は裏地を付けて引っ掛けないような工夫がされています。
また、最近ではこの糸渡りを表側に出してデザインの要素の一つとして使われています。
●針抜きジャカード
手編△家庭機△手横×工業機○
一部分をリブ編みするように糸渡りの中心の1目分を裏目として編む『針抜きジャカード』をすることによって糸渡の幅を短く出来ます。家庭用編み機や手編みの場合は編んだ後にタッピ返しで糸渡りの中心を編むと渡り幅が短くなります。(後からタッピ返しする場合、目が緩くなりがち)
↓タッピ返し後↓
●編みくるむ編み込み(カウチン編み)
手編○家庭機×手横×工業機×
機械編みではでは出来ません。手編みでの技法で『編みくるむ編み込み(カウチン編み)』という編み方があり、シングルジャカードを編みながら同時に後ろの糸渡りをくるむように編むことで渡りをなくす方法があります。
渡っている糸を編みくるみながら編み込み模様をすることで糸渡りがなくなり、さらには伸縮性が弱くなって、厚みが増すのがカウチン編みの特徴です。カナダの寒い地方で生まれた編み方で、編みくるむことで密度が上がり、隙間から風が入ってきやすいセーターをより暖かく着ることが出来ます。
●ダブルジャカード●
手編×家庭機△手横×工業機○
ダブルジャカードは機械編み特有の編み方で、シングルジャカードのように裏側に糸渡りがないので柄に制約がありません。
シングルジャカードより厚みのあるしっかりとした編み地に仕上がります。
裏糸が表側に響いてしまい、他のジャカード組織に比べ色がにごりやすくなっています。
裏側は「bird’s-eye(バーズアイ)、裏(後)鹿の子」と呼ばれる編み地と。
「裏(後)総針」と呼ばれる、色糸の数だけボーダーになる編み方があり
両方を比べると「裏(後)鹿の子」と呼ばれるダブルジャカードの方がよりしっかりとした編み地になり、「裏(後)総針」の方はたて長になるのでより薄くなります。
基本的には3色以上で構成され、糸渡りがないので細かい柄でも、大柄でも多色使でも向いています。
糸を使う本数が多くその分厚みが出ますので、使う糸1本1本は細い方が好ましいです。
同じ袋ジャカードと違い表面と裏面がしっかりくっついている編み地になります。
●袋ジャカード●
手編△家庭機×手横×工業機○
袋ジャカードは、袋状に編み立てながら一方の糸で表を編んでいる時に、裏側で別の糸で同時に編んで、表裏がリーバーシブルとして使える編み地です。基本的には❷色使いで、3色以上使う場合は一段に対して2色に制限した方が効率が良い編み地になります。袋ジャカードと違い裏糸が表側に響かないので綺麗な編み柄に仕上がります。
シングルジャカードみたいに糸渡りはありませんので柄の制限は特にありませんが、ダブルジャカードと違い、表面と裏面は色糸が入れ変わっているところでしか止まっていないので、同じ色が長く続く場所は表面と裏面がズレるので注意が必要です。同じ色が続く場合、一目だけ違う色を入れれば表側の糸と裏の糸が逆になり内側で糸がクロスして編み地が止まります。
また、表面と裏面を全く違う色にしたい時も「袋ジャカード」の技法を使いますが、この場合表面と裏面が全く止まらずくっつかないので、内側に熱で溶ける糸「熱融着糸」などを使い表面と裏面をくっつける方法もあります。
●ブリスタージャカード(ふくれジャカード)
手編△家庭機×手横×工業機○
袋ジャカードとダブルジャカードを応用した編み地で、片側の袋ジャカード部分の度目(編む強さ)を緩く編むことによって「ふくれた」ような編み地表現が出来ます。また度目の調整以外に、一方の糸をゴム糸などのストレッチ性の糸で編むことにより、縮む場所とふくれる場所のコントラストが出るようにも編めます。
●インターシャ●
手編◎家庭機○手横△工業機○
インターシャとはジャカードのように糸渡りがなく、色が切り変わるところで糸がクロスして裏で繋ぎ合わせるようにして往復に戻って編むことができる編み方です。アーガイルなどの大柄に向いていて、糸渡りがないので、糸のロスを最小限に抑えることが出来、より薄く、編み目もとても綺麗に仕上がります。工業用編み機では糸を持つキャリアに限界があるため色数に限界があります。手編みや家庭用編み機では制限なく出来ますが、シングルジャカードより編み方が難しいため時間がかかり、糸数が増えるば増えるほど最後の糸始末が多くなってしまいます。
インターシャの何がすごい?
横編み機や手編みは基本的に横方向に編み進め往復することで、1段、2段とカウントしていきます。
大柄が編みたい時に、シングルジャカードを使った場合糸渡りが出すぎてしまいます。
また、ダブルジャカードでは編み目があまり綺麗でなく厚みも出てしまう時にインターシャを使います。
今回のインターシャでは、色数としてはグレー、ブルー、パープル、ブラックの4色を使用していますが、横方向の段数で考えると7色分(キャリッジも同様)必要になります。1つの「島」に対して1つの糸が必要なので、グレーの糸は❶、❸、❺、❼部分で使う4本の糸が必要になります。ブルー、パープル、ブラックがそれぞれ❶本ずつ必要なので合計7本分になります。
ニット工場でインターシャを編む場合は、インターシャ装置が付いているのか確認が必要です。また目当てのゲージの編み機のキャリッジがどのくらいあり、何色まで使用可能なのかということも聞く必要があります。(*捨て編みの糸や抜き糸等もキャリッジの一つとしてカウントします-2)
島精機製作所の工業用編み機『MACH2SIR』は最大40個のキャリジが使用可能になっていますが、工場にあるほとんどの機械は「インターシャ」の需要がないためキャリッジを外してしまったり、そもそもインターシャ装置をつけていない機械や工場もあるのでインターシャの多色使いが出来る工場はかなり少ないのが現状です。
●編み地の特性を知る●
ジャカードの種類やインターシャの編み地の特性を知ることで、どんな柄が向いているのか?編み地厚みはどのくらいになるのか?綺麗に仕上がるのか?などデザインの幅が広がるとともにニット工場や編み手さんに指示する力もついてきます。
編み物(ニット)がなぜ楽しいという答えの一つに、分業化されている布帛とは違い、糸を選び⇨編み方や形を決めて⇨細部のデザインや縫製仕様を決めるというデザインの幅が広いということがあげられます。
糸を知ること、編み方や機械を知ること、縫製の方法を知ることなど知識として必要なことはたくさんありますが、
編み物(ニット)は知識や技術を知れば知るほどデザインの可能性が広がることでしょう。