家庭用編み機がひそかに盛り上がっていたり、私たちニッティングバードも一期一会糸(工業用毛糸を引き揃えたアップサイクルな糸)として沢山の人たちにお届けしています。
工業用毛糸は手芸店などで販売されている「手芸糸」とは違い、編んだ後に必ず「洗い工程」を経ることで風合いが一番良い状態になります。
より工業用毛糸を生かして欲しいので、ご家庭で出来る加工方法をお伝えしたいと思います。
工業用糸は編んだら「湯通し・ソーピング」をした方がよい理由
工業用糸は
・機械編みをするときに、編みやすく糸切れしづらいようにロウ引きがしてある
・紡績の段階についた油や、羊が元々持っている油、匂いなどがついている糸もある
・水の温度と摩擦を加えることで縮絨させて強度と風合いが出る
多くの手芸糸のように「販売している糸の状態で風合いが良い」ということではなく、仕上げ加工を前提としています。洗うことで余分なモノが落ちて、糸自体が膨らみ本来の糸が持っている良さが出ます。
本来の縮絨・ソーピングは職人がやる仕事
手編みで言う「湯通し(水通し)・ソーピング」を工業では「縮絨・ソーピング」と言います。
工業用毛糸を使い、工業用編機で編まれたニット製品は縮絨・ソーピングされます。
特殊な洗濯機で加工がなされており、後加工をする専門の工場もあるくらいです。
糸の組成、編み柄、編む強さ、糸の色、デザイナーが希望する風合いによって、
→水温と水量、回転速度、それぞれの時間を細かく決めて縮絨加工がなされます。
工業用糸を100%良い状態に持っていくには、職人さんの長年の経験と 知識が必要なんです。
ニッティングバード流「湯通し・ソーピング」の How to
ここでは家庭でできる「湯通し・ソーピング」の仕方をご紹介します。
ご家庭の洗濯機を使い、おしゃれ着など衣類が痛みづらいドライクリーニングのような洗い方でネットに入れ洗いや脱水時間を短くする方法もありますが、今回はより目面を安定させるための方法です。未防縮ウールなどのフェルト化しやすい糸を誤って縮絨させないためにも役に立つ方法なので、ぜひお試しくださいね。
(*メーカーや洗濯機の種類によって水流も違うので、問題の起こりにくい手洗いの方法を紹介します)
①スチームアイロン
まず初めに、湯通しをする前の処理としてスチームアイロンをかけます。
(*素材によりますが中温度を目安に)
水につける前に、スチームで糸を膨らませて「編み目」を安定させることによって、目面がぶれるのを防ぎます。
この前処理だけでかなり違うので絶対にやりましょう。
②吸水
36°〜40°のぬるま湯を桶などにはって、15分ほどつけ置きします。
完全に水分を吸収させることが大切なので、気泡が出ない=空気が抜けている ことを確認しましょう。
(*今回は、ゲージを取るための編み地スワッチなのでちいさな桶を使っていますが、セーターなどの大物になる場合は大きなタライや浴槽など使い、たっぷりのぬるま湯を使いましょう)
③洗い
中性洗剤をいれて(水4ℓに対して洗剤10ml程度)優しく押し洗いをします。
(*お使いになる洗剤の用法容量をご確認ください)
お湯で洗うことで余分な油やロウなどが落ちていきます。
④脱水
手のひらでやさしくく脱水。ぬるま湯の必要はありません。水をを変えて2度やさしく脱水します。柔軟剤を使用する場合はすすいだ後ですが、柔軟剤はあまりおすすめしません。
(*柔軟剤は繊維をコーティングして肌触りを良くします。繊維そのものが持っている吸水・放出などの機能が低下してしまいます。触り心地を優先の場合は使用しても○)
タオルで包み 余分な水分をさらに取り除く。
できるだけ水分を切ることで、乾きも早くなります。大きなものや厚みのある編地はタオルを交換し数回繰り返しましょう。
(*脱水の際は、編地を絞らないように注意してください)
脱水工程は、ご家庭の洗濯機の手洗いコース(ソフト、ドライ、おしゃれ着など)の脱水を1分以内でも問題ありませんが、メーカーや洗濯機の種類によって脱水の強さが違うので十分に気をつけてください。(その際、粗めのネットに入れてあげたりさらにタオルで包んでからおこなうことで 目面のぶれも少なくなります。)
⑤乾燥
日陰・平干しで自然乾燥します。ブロッキング・シェイピングが必要なものはここでおこないます。
セーター等重さがあるニットの場合、ハンガーにかけて干してしまうと、伸びてしまうので気をつけてください。
場所が必要ですが平干しを推奨します。
⑥スチームアイロン
乾燥したら、最後にもう一度浮かせながらスチームアイロンをあてて編地・サイズを整えます。ブロッキングの場合はそのままスチームアイロンを。
(*素材や編地により、アイロンの温度やスチーム・プレスなど調整してください。)
まとめ
一般家庭でできる簡単な「湯通し・ソーピング」の方法をご紹介しました。
素材や編み組織など、条件によって結果が左右されるので。ご家庭でおこなう際は、いきなり本番ではなく、まずは編地スワッチで「湯通し・ソーピング」をテストすることをおすすめします。
(*特に未防縮のウールは高い温度と摩擦でどんどんフェルトかするのでご注意を)
また、風合い(強度)は好みの問題であり、一概に「これが一番良いと言う正解」はありません。
ウールの場合、わざと強縮(縮絨を強くかけてフェルト化)をかけることも。また、モヘヤのようなフェルト化しない起毛素材は、洗濯機を使いお湯で洗うことでより毛足が吹き出したり、乾いた後に低温の乾燥機にかけることでふっくらと仕上げることもあります。
仕上げたい風合いに近づくように、つけ置き洗いの時間や押し洗いの頻度、乾燥法を変えたりして試してみてはいかがでしょう。編むだけではない編み物の楽しさや素材の奥深さを体験できます。すこし手間はかかりますが、その分愛着もひとしお!ぜひお試しくださいね。