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家庭用編み機の歴史とこれから

今回の記事はニット、テキスタイルアーティスト/家庭用編み機研究家の宮田明日鹿さんと一緒に「編み機についてもっと知ってもらいたい、編み機を復活させたい」と話していたことから協力して記事を書いてもらい、最後に私たちニッティングバードが編集に携わりました。宮田さんは家庭用編み機を使い始めてはや5年。編み機の歴史や新しい変化、どんな過去があって今はどんな状況なのか、時代とともに変化する家庭用編み機の楽しみ方を研究家としての目線も含めご紹介して行きます。

●家庭用編み機ってなに?

みなさん家庭用編み機をご存知ですか?家庭用横編み機は略して「家庭機」と呼ばれています。
祖母や母親が使っていて見たこともある方もいると思います。
今ではほとんど見かけることもなくなってしまいましたが、全盛期だった昭和30年代では花嫁道具としてミシンと同じように一家に一台持っている時代もありました。祖父母に聞けば知らないと答える人がいないくらい一般的な機械でした。
家庭用編み機を担いで編み物教室に通うことがかっこいいとされていた時代だったとは驚きです。

その家庭機では手編みの「棒針り編み」と同じ組織を編むことができ、手編みより速く編めて独特の風合いと家庭機でしか編めない変わった編み方も出来ます。(かぎ針編の組織はできません)

・引き返しを使った変形ボーダ(写真左)、スレッド編み(写真右)

●家庭用編み機の歴史

昔は40社ほどの会社が家庭用編み機を製造・販売しブラザー工業株式会社、シルバー精工株式会社が二大巨頭として海外にも沢山輸出していました。
1990年代にブラザー社は生産中止、電子編み機など家庭用としてはハイスペックな機械も沢山ありました。現在では株式会社ドレスイン(シルバー社倒産後の引き継いだ会社)がパンチカード式の機械や樹脂製簡易編み機を小さいながら製造・販売を続けています。

  
・パンチカード式家庭用編み機
             
・電子式家庭用編み機「ブラザーKH940」

  

●家庭用編み機のはじまりと歴史

手編みの文化が日本で一般化したのは約100年前の第一次大戦後で景気がよくなり毛糸編み物の需要が増えた頃と言われています。
日本では手工芸としての編み物は染めや織りに比べると歴史は浅いですが、なんと家庭用編み機の製造は日本が最初と言われています。
手編みだと時間がかかり、工業用の手動式横編み機(通称手横機)は女性には重く扱いづらいものであったので、手芸や内職道具として家庭用編み機産業が発展していきました。


・重量感がある工業用の手横機

第二次世界大戦後の日本は買うより作る方が安かった時代です。洋裁の知識のある祖母や母親が子供や家族のために着るものなどを作るようになり、手編みの需要も増えると共に手編みより格段に速く編むことができることと、なおかつ手横や工業用編み機などで編んだセーターとは違い手編みに近い独特の風合いになるため「家庭用編み機」はどんどん普及して行きました。

家庭用編み機が一般化されたとはいえ、ミシンとは違い習得するまでにかなりの訓練が必要であり(手編みや編み組織の構造の知識も必要であるため)教室に通うことが必須でした。
編み物の基礎を学んだ後に編み機を購入するという流れで、「編み機販売店」と「編み物教室」はセットで家庭用編み機の文化を形成していったという背景があります。
またミシン以上に家庭用編み機は場所をとるため、編み機教室に置き去りにされてしまう機械もありました。今でも処分されていない祖母の家に眠っている家庭用編み機は多いので気になった方は聞いてみると倉庫などから出てくるかもしれません。

●家庭用編み機の種類

初期の家庭用編み機は模様編みなどの選針が必要な柄は手作業で針を出す方法だったので、平編み(メリヤス編み)が主流でした。古い機械は鉄製で現在の編み機のプラスチック製とは違い色も形もかっこいいです。

・初期の家庭用編み機

その後レバー式で選針ができるようになりパンチカード式、電子式へと発展していきました。針の大きさは「太い針、小さい針、その間の中ぐらいの針」の3種類ありそれぞれその針にちなんで「太機、中機、細機」と呼ばれ分類されています。
パンチカードと、電子式の大きな違いは柄を構成できる目の数です。パンチカードは24目の60段の中で柄を組みリピートします。


中機の電子式は200目全部の針を使って柄を組むことができるので、大きな柄なども編めるようになりました。
ブラザー社が販売していた最後の機械では、両サイドに 6 色のカラーチェンジャーが装備され、キャリッジを操縦するモーター付きの電子編み機が発売されました。これは手横と、家庭用編み機の中間の機械として製造され100台ほどしか生産されなかった幻の機械で日本には現存しないかもという噂もあります。
ドイツベルリンにある編み機と電子工作とテキスタイルをコンセプトにしたETIB (Electronic + Textile institute berlin)というスタジオに2台あることが分かっています。日本発祥の家庭機は海外にも沢山輸出していたので今でも海外のオークションサイトeBay(イーベイ)ではプレミア化され一部定価以上で取引され世界の様々な場所で現役で動いています。


・幻の編み機ブラザーCK-35 両サイドに 6 色のカラーチェンジャーが装備され、キャリッジを操縦するモーター付き。

1982年 に簡易型電子編み機が発売され2000年に入る前にブラザー社は家庭用編み機の生産を中止しました。
ここで家庭用編み機の未来が一旦閉ざされてしまいましたが、この機械が実は編み機がすたれた後に大きな変化をもたらします。

●改造(ハック)され再び息を吹き返した家庭用編み機

2010年にブラザーの家庭用電子編み機 KH-930 がパソコンから編み機へ柄データを読み込ませる改造(ハック)がアメリカで行われ、Youtube で改造した動画が公開されました。
ブラザーの電子編み機改造動画

たちまちメーカー系といわれる人たちの中で話題となり、エレクトロニックニッティングマシーン(家庭用電子編み機)の新しい可能性が出てきました。手芸として楽しんでいた人だけでなくデジタルファブリケーションとしての可能性が見出され、小さいながらムーブメントが起こっています。
*デジタルファブリケーションとは: レーザーカッターや3Dプリンターなどの、コンピュータと接続されたデジタル工作機械のことを指します。

なぜブラザー社の機械が改造されたかというと、80年代はフロッピーディスクが主流で柄を入力する装置がフロッピーディスクでした。ブラザー社はこの時代で生産を中止しており、パソコン用ソフト等が発売されていたシルバー社の電子編み機とは違い、機械に改造する余地と面白さが残っていたからこのような現象が起きたと推測できます。

●編み機の改造方法

編み機の改造方法はフロッピーディスクのコネクタを利用し USB ケーブルを改造しパソコンと編み機をつなぐ方法と、電子基板ごと変える方法の2通りあります。
私自身も取り入れているのはUSBケーブルを改造した方法です。私はオリジナルの編み機専用ソフトに、画像データを読み込ませ、ニットに落とし込んだ作品を作っています。
この方法をとることで写真をスキャンして画像データとしてドット柄のように編むことが出来、さらにパンチカードの24目60段のリピート縛りがなくなります。


・USB ケーブルの配線を編み機のコネクタの本数に改造したケーブル

・オリジナルソフトのパソコン画面

     
・写真をニットの柄に落とし込んだ作品
作品制作: 宮田明日鹿 編み機専用ソフト制作:Takashi Matsuoka

他に日本ではグリッチニット(Glitch knit)という電子基板ごと変えて新たに仕組みを作ったプロジェクトがあります。
世界には多くのブラザーの電子編み機が輸出された背景もあり、様々な国で同じような改造が行われています。
グリッチニット(Glitch knit)の動画

●オープンニット(家庭用自動横編み機)

2014年にGerard Rubio 氏が Openknit を公開しました。
今までの家庭用編み機とは違い家庭用の大きさを保ちながら自動で編む機械として開発されました。
販売はされていませんが作り方が公開されているので材料を揃え、3Dプリンターやレーザーカッターなどを使って材料を加工して組み立てることが出来ます。
編み機を使う側から作るという方向に手芸界もびっくりです。


・ミラノのWe Make にあった 持ち運び可能なOpenknit
デジタルファブリケーションを使いこなすというスキルが必要なので簡単には作れませんが、組み立てからカスタマイズなど自分で加工できるので素材の色などを自由に選べて好きな色に組み立て改良もできるというものです。
Openknitの動画

●家庭用編み機はどこへ向かう?

1920 年代から家庭用編み機の歴史が始まり、様々な発展を遂げていく中で一時は生産中止など歴史を閉じようとしていました。デジタル世代へと突入して家庭用編み機を改造したり、家庭用の自動化の生産に挑戦する人々が出てきたり、時代と共に変化をしている家庭用編み機は今後プリンターのようにサイズもコンパクト化した自動編み機が一家に一台という時代がいつか来るかもしれません。まさにボタン一つでポン!の時代。
そんな時代になっても手で作る楽しみは絶えず二極化していき、多種多様な楽しみ方がふえ、家庭用編み機や手編みの文化も更新され続けています。

今年の11月にタカラトミーから子供向け玩具、「あむかわアミーナ」が発売されました。かつて同様の玩具を使用していた母親世代や、家庭用編み機を使っていた祖母世代の3世代にわったて楽しめることをコンセプトとしています。玩具ですが、基本操作は家庭用編み機と変わりません。機械は針が20本、針を選針すると編込み模様が作れ、柄のシートが付属でついていて手を動かしながら一段一段編み進めていき、難しさも残しながら、物をつくる楽しみを感じれる機械です。家庭用編み機の新しい製品が出る前に子供向けの機械が発売されたことでこれからも編み物文化が発展していくきっかけにもなると思います。

・(c) TOMY 

現在廃盤になった、ブラザー工業やシルバー精工の編み機たちは公式のサポートや修理は終わってしまいましたが、中古の編み機を修理販売しているお店が日本国内では存在しており、一部のニッターさんやブランドの量産用に生産する編み手さんに支持されています。
また昔の機械は長く使える丈夫なものということもあり、倉庫で眠っている編み機もメンテナンスをしっかりすれば充分に楽しめます。
私は1987年に発売されたKH940をヤフーオークションで購入し、ブラザーOBの方にメンテナンスをしてもらって使用しています。発売から約30年経った今でもまだまだ使えています。

どの業界も同じで昔の機械をメンテナンスできる人の高齢化が進んでいるのが現状です。家庭用編み機のメンテナンスができる若手への継承が課題でもあり、ニッターさん、作家、子供など使う層の幅が広がり楽しむ人が増えていくような作品を作っていきたいと思っています。
私自身家庭用編み機と出会って、機械を知れば知るほどはまっていったので、家庭用自動編み機がどういった人に影響を与え、どのように使いこなされ面白いニットが出来上がっていくのか、まだまだ可能性は無限です。

written by 宮田明日鹿

ニット、テキスタイルアーティスト/家庭用編み機研究家 宮田明日鹿のHP


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