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家庭機で編むユニークなグラフィックニット、『編み物☆堀ノ内』さんインタビュー 

今回は狂い編みサンダーニットこと「編み物☆堀ノ内」として家庭用編み機でユーモア溢れる編み物作品を作っている、堀ノ内達也さんにお話を伺ってきました。
堀ノ内さんは桑沢デザイン研究所卒、グラフィックデザイナーを生業としながら、3〜4年前から編み物で作品を作り始めたそうです。松田聖子や王貞治など時代を象徴する人の顔などをモチーフにしたインパクトのあるセーターを中心に一点ものの編み物作品を製作しているだけでなく、昨今では岡村靖幸さんのツアーグッズのセーターをコラボレーションで作るなど活動の幅を広げています。

昔からファンの岡村靖幸さんの公式twitterで堀ノ内さんの作品とセーターのコラボ作品を初めて見たときからインタビューしてみたいなという思いがあり、今回ご連絡させてもらいました、どういう経緯で編み物を始めたのか教えていただけますか?

-たまたまネットで海外の人たちがロックやミュージシャンをモチーフとした編み込みニットを作っているのを目にして面白いと思い、編み物でグラフィックを作ってみたいと思ったのがきっかけです。編み物をするにあたって、知識や技術が全くなかったのですが、小説家である橋本治さんの『男の編み物、橋本治の手トリ足トリ』という本にとても影響をうけました。その本では山口百恵やデヴィット・ボウイの顔を精巧に編み込んだセーターを手編みで作られていて、編み物をやるならこのくらいやりたいと思いました。
How to本としてもとてもわかりやすく、メリアス編みの編み方一つにしても詳しく解説が入っていて、編み物に関してはこの本がスタートです。

小説家の方が編み物をするのも珍しいですが、この本はいきなりセーターを編ませるための工夫がたくさん書いてあり、30年くらい前の本とは思えない質が高く、理屈として納得したい男性の方にオススメです。

なぜ家庭用編み機で作ろうと思ったのですか?

-初めは手編みで作っていたのですが、手編みは時間がかかり、効率が悪いと思い、ただなんとかニットを仕事にしたいと思っていたので、編み機を導入しました。初めは後ろ身頃や袖の無地のメリアス編み地の部分のみを機械編みで行い、それだけでも能率はあがったのですが、やはり柄の部分に一番時間がかかるので機械編みを導入しました。
機械編みに関しても機械を買っても全く初めは使い方がわからなかったので、最初は元シルバー精工の人に出張で教えてもらっていましたが、限度があるなと思って千葉のカルチャースクールで半年ほど学びました。

最初から「電子編み機を学ぶ」というのは思い切りましたね。少ないながら「編み機教室」というのは各地に残っていますが、電子編み機を教えてくれる教室があることは知りませんでした。

-色々探しましたが、千葉にしかなかったのでそこまで通ってました。
先生も生徒さんも割とご年配の方 が多かったのですが皆さんパソコンに繋いで電子編み機を使いこなされてました。今でも電子編み機はロシアを中心に需要があり輸出しているようです。

電子編み機が発売した当時、アナログな編み物をしている人にとっては便利ではありますが、ハイテクすぎてついていけなかった人が多かったと聞きます。時代が代わりPCが簡単に手に入る時代になったとはいえ、そのご年配の先生はすごいですね。

それにしても、編み機でしっかりと成形もして、リンキングで縫製するなんて初めて数年でできることではないと思います。しかも柄の部分に至っては、シングルジャカードではなくインターシャで編むことで、より綺麗により軽く柄を表現しているのは素晴らしいです。(シングルジャカードやインターシャについては過去記事の「ジャカードとインターシャ」より。この記事を読むことでより編み物堀ノ内さんのすごさがわかります。)

工業用編み機だと糸を持つキャリッジの数に制限があるため、色数に制限があったりしますが、どのくらいの数を使いますか?

-機械自体に制限は無いので色数はいくつでも使います。ジャカード編みだと家庭機でも制限はありますが、インターシャだと一段一段糸をかけていくだけなので、色数の制限はないです。ただ、たくさん使うとそれだけ手間も糸始末もかかるということはありますが。

デザインの考え方はグラフィックのドットとして考えているのですか?素材へのこだわりは?

-はい、そうです。最初にイラストレーター等でグラフィックを元にドット絵の編図を作り、それを元に該当する糸の色を集めた表を作ってから編み始めています。当てはまる糸の色がなかなかなくて困ることもありますが、糸自体は基本的に少量でいいので普通の手芸店で購入しています。その他身頃や袖部分など大量に使う白や黒などコーンの糸はネットオークションなどで購入しています。素材は基本的にはウールを使います。アクリルも発色が良くて好きですが、着心地や風合いはやはりウールの方がいいですね。

グラフィックの正方形のピクセルとは違い、同じ柄を作ったとしても編み物はハートのような形なので柔らかい印象になるのが良いと思います。

絵柄のモチーフはどんな基準で選んでいるのですか?

-自分の好きな物ですね。編み物が好きな人以外で、僕に反応してくれる人は同世代の人が多いです。『たのきんトリオ』などはまさにそうですね(笑)
自分が興味のあるものでないと、モチベーションがあがらないので。

海外では一定のムーブメントがある「アグリー・クリスマス・セーター」のように、「悪趣味な柄」を逆に楽しもうとする、一般的に言う「ファッション」とは違うベクトルの話でとても魅力的ですし「ダサい」からこそ着たいと思ってしまうデザインだと感じます。岡村ちゃんのセーターのコラボ作品を初めて見たとき単純に「欲しい!着たい」と思いました。気付いた時には完売していましたが。

岡村さんスタイリストさんを介して連絡があって一緒にやらないかと言われまして、このコラボ作品は紫とピンク各50着ずつしか作りませんでした。これは家庭機ではなくニット工場にお願いして作っています。

今後はどのような活動をやっていきたいですか?

-今はグラフィックデザインと編み物を同時並行でやっていますが、将来的にはフルタイムニットの人になりたいと思っています。一点物として作っていると限度があるので、価格帯を下げて展開をしたいとも考えていて、量産にも興味があります。
作品としてはロックTシャツのロックセーターバージョンのようなものを作っていきたいですね。目指しているのは編み物でのグラフィックなので顔以外のパターンなどでも面白いものを作っていきたいと思っています。

単純に自分の手作業だけでは限界もあると思いますし、値段が高くなってしまいますから、前身頃だけ家庭機で編んで、他の部分にニット生地を使用してカットして縫製したら売値を抑えられると思います。あるいは布帛(普通の生地)と合わせても面白いかもしれないですね。
うまく工業機と家庭用編み機のバランスを取れたらもっとたくさんの人が見てくれるのではないでしょうか。

-そのような量産の問題を解決するとともに、一点ものでアート作品として提案して行きたいです。また今回の岡村靖幸さんのコラボのようにいろいろな方たちとお仕事ができたらいいなと思っています。

編み物☆堀ノ内の世界観

編み物作品を作り始めた時の周りの反応の良さや、グラフィックデザイナーだけをやっていた時には出会えなかった人にも編み物を通して出会えたのもニットの魅力の一つだと語って下さった堀ノ内さん。外国人アーティストのモチーフで作っているので海外から問い合わせが多いとのこと。

挑戦的なイメージのあるグラフィックデザインのミュージシャン達が編み目のドットとして落とし込まれることによって、不思議と身近な暖かさを感じられる作品となっていることが、堀ノ内さんの人柄と「勇気がなくて自分では着れない」というセリフが印象的でした。

「男性のやる編み物」、「グラフィックデザイナーが手がける編み物」作品の垣根を超えて、味わいのあるユニークなニット作品が今後もたくさん展開されていくことにますます期待が高まります!

狂い編みサンダーニット
編み物☆堀ノ内

1967年 神奈川県相模原市生まれ。桑沢デザイン研究所卒業

https://www.amimono.tokyo

執筆者 Knittingbird 山口/田沼