以前にも一度取材させていただいた、ニットプロダクトブランドKNITOLOGY(ニットロジー)。
女性の体を美しく見せるシルエットを追求したワークウエアとしてのニット製品を、工業用編み機の技術を駆使して編み立てていく、こだわりの製品作りをしています。以前の記事には、そんなKNITOLOGYの製品に関する取材をさせていただきました。(詳しくは「究極のワークコート KNITOLOGY(ニットロジー)」をご参照ください。)
この度ついに東京の自社内にドイツ製STOLL社の工業用編み機を導入したと伺い、デザイナーの鬼久保綾子さんに今後のブランドの展望なども含め、再びインタビューをさせていただきました。
まず、以前はワークコートについて取材させていただいたのですが、今製品は、ワークコートの他にワークジャケット、プルオーバーの三種類に増えましたが、それはどのような流れで増やしたのですか?
-ジャケットに関しては初めに丈の長いワークコートを作り、女性のための仕事着として服を提案していきたかったので、コートからの自然な流れで作ろうと思いました。丈が短いものが欲しいという意見も多かったので。
T-確かにコートの方がインパクトはありますが、ジャケットの方が羽織易くより気軽に着る幅が広がったような印象を受けます。
-プルオーバーを作った理由は、ニットのプルオーバーといえばセーターが一般的ですが、ゆるっとしたセーターはワークシーンで着られず、かといってカットソーとなってもピシッとしないので、セーターとカットソーの間でワークシーンで着られるプルオーバーを作りたいと思ったのがきっかけです。
従来のニットのプルオーバーのイメージだとどうしてもローゲージのザクザクしたセーターっぽくなってしまう。また、パイル地を使ったカット&ソーイングしたスウェットのセーターだとカジュアルになりすぎてしまう中、ハイゲージニットのプルオーバーはその丁度中間のようなデザインですね。
今後のアイテム展開はどのようにしていきたいですか?
-ワークウエアのラインとして、コート、ジャケット、プルオーバー、パンツ、スカートあたりまではアイテムとして一通り出したいと考えています。
ワークウエアとしてシンプルなものを一通り作ってから、生地違いのものや少しディテールが入ったものなどを、次の段階として展開していけたら良いと考えています。ただまずはブランドの指針というか、方向性として、働く女性のワークウエアとしてのラインをしっかり打ち出したいです。
プロダクト目線のブランドだからこそできる、アイテムを絞った提案にはとても好感が持てます。「女性のワークウェア」として、ニッチな市場を狙っていって欲しいです。
ワークウエアとして提案していますが、ユニフォームとして着ているお店などあるのですか?
-ショップコートとして、京都の「ギャラリーやまほん」さん、や、東京にあるジュエリーブランドのhumさんなどが着用して下さっていますね。
将来的にホテルのウエアとか、寝具のデザインなどもお話があればやっていきたいです。
アパレルブランドだととても気に入ったデザインの服が次のシーズンに無いのが当たり前なので、同じものを作り続け、手に入るということがKNITOLOGY一番の強みなのだと思っていますが。
-はい、実際に気に入ってくださって、リピートで買って下さったり、アイテムを全て揃えてくださるお客様もいます。ただ、認知度がまだまだ低いこともあって、KNITOLOGYで作っているような商品を欲しいと思っているような人に知られていないのと、ブランドで打ち出しているアイテム数が今のところ少ないので、スタイリングが難しくメディア露出が少ないというのは問題点で、今後の課題でもありますね。
この度、自社に工業用編み機を導入されましたが、どのような目的で導入したのですか?
-以前は私自身が福島の工場近くに滞在しながら、サンプルを作っていたのですが、今後はサンプル製作を自社内で研究しながら行っていき、生産の効率を上げていきたいと思っています。
またカシミヤなどの高級な糸の服をセミオーダー的に作っていきたいです。そして、将来的には、フルオーダーもやっていきたいですね。
昔のDIORのアトリエのように、顧客のボディが並んでいるというほどではなくても、それぞれの人の体型やニーズに合わせて、ボディに肉付きを察せて、体の線を美しく出すニット製品を製作していきたいです。体のラインを出した服を作りたいというお客さんの声があったりもするので。
手編みやセミオーダーならまだしも、工業用ニット製品のフルオーダーというのはなかなか見られないアプローチの仕方だと思いますので、工業用編み機を持っているからこその利点を生かしていって欲しいです。
編み機を導入したことによってやりたいことが具体的になっているように伺えます。ニットデザインという分野はデザイナー的な要素より、技術職的な要素の方が多いと思うので、ニットデザイナーとして編み機を持っているというのは今後強みになっていくと思います。
-実際に福島の工場に通ってわかったことなのですが、機械の特性や調整方法などを勉強して、実際に動かせるようになってくると、無理だと思っていたこともできることがわかるのですよね。ただ、使いこなすようになるのは大変なのですが。あと、今回ものづくり補助金を使って、最新の機械を導入したのですが、新しい機械になればなるほど、技術も進歩していて、使いやすい部分も増えるので、その点も良かったです。
ニットを生産するということは、布帛に比べ分業制になっていないので、ニットデザイナーは、糸そのもののこと、編み方のこと、編み機のこと、工場の背景など沢山の知識が必要です。それと反面に、工場や外部に任せっきりのところもあるので、細かく調整出来ない部分があります。(布帛のデザイナーは生地とミシンがあればパターンを組んで自分たちでカット縫製して最終的な製品まで自分たちで出来る)
机上の空論にならないためにも、機械は難しいとしても今後デザインシステム(ニットの柄を組み機械に支持するためのマシン)を導入するデザイナーやOEMは今後確実に増えていくと思います。
KNITOLOGYとしてのブランドの展望についてはどのように考えていますか?
-将来的にやりたいことが大きくは二つあって、先ほど少しお話ししたのですが、もともとオートクチュールのような繊細なものづくりに対する憧れが大きかった部分もあり、ヨーロッパのクチュールブランドのようなことを編み機でのフルオーダー、セミオーダー事業としてやりたいというのが一つの夢です。
ただそれだけではなくて、今作っているワークウエアラインをベースにいろんな人に着てもらえる服として、その先に入院着や福祉関係の服作りがしたいという思いがありますね。
入院着はこれから福祉の需要が増えるということと、人によって症状や怪我の重度によって細かいオーダーが必要だと考えるので、細かいオーダーに応えられる形で作っていけたらと。
さらには、もともとやっていた触感の研究を継続したいという思いもあり、ブランドも実績が伴ってくれば、養護施設の治療の一環としての布物のデザインがなどもやっていけたらという夢もあります。
工業用製品を作る編み機でオーダーに対応するというのは、自社に編み機があるからこそ出来る試みなので、是非ともやっていただきたいです。特に男性着でも欲しいという声は聞いているので。海外に比べまだまだ「ホスピタリティ」という言葉に馴染みがない中、テキスタイルの触感の研究して、入院着や福祉関係の製品を作るというのはとても面白い取り組みですね。
ファッションブランドという側面だけでない夢があるということですか?
-そうですね、社会に還元するという部分も大事でもあるけれども、慈善活動としてやる姿勢ではなく、「ファッション」という媒体がそういう活動をするための入口として良いと思っていて、もちろんファッションとして成功することもとても難しいのですが、ファッションブランドとして製品を作れば、背景を知らなくても、買ってもらえれば良いし、社会貢献とビジネスとのバランスが取れると思うのです。もちろんビジネス的な側面や社会貢献を抜きにしても、服もニットも好きだというのが大前提ですが。
そのビジネスをしながら、将来的にどう社会に還元していくかのバランス感を考えながら今後ブランドとして発展していけたらと思っています。
工業用編み機を1ブランドが持つということ
ニット工場でもないのに、工業用編み機を自社に導入することはそれなりのリスクはありますが、生産性を上げるということだけでなく、研究目的で時間をかけて作れるというのは、他のニットデザイナーや、OEMにはない違いを生み出せる場所としてとても可能性を秘めていると思います。島精機とユニクロが合弁会社を設立し、日本にホールガーメントの生産拠点を作り生産効率を上げる取り組みを行っていますが、それとは違った方向性で編み機を研究開発目的に使用することで、最近話題になっているニットスニーカーのようなアプローチで、より革新的なものや、他分野に使えるような可能性を模索できるのは同じニットデザイナーとして羨ましい限りです。
鬼久保さんのニット製品を通してどう社会と繋がっていくのかを常に考える姿勢から、将来的にKNITOLOGYは日常や福祉などあらゆるシーンで需要のあるプロダクトブランドになるために、今後も挑戦していって欲しいと思います。
執筆者 Knittingbird田沼