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ナイキテックニットウィンドランナー~横編ニットのスポーツウェア~

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スポーツ製品に横編ニットの成形とリンキング

今回は「Nike Tech Knit Windrunner-ナイキテックニットウィンドランナー」をご紹介します。

「NIKE TECH KNIT-ナイキテックニット-」は新素材の糸を使用し、通気性と保温性を兼ね備えた、機能性とデザイン性を融合させた革新的な横編みニットの製品です。ナイキのデザイナーを筆頭に、糸の専門家、プログラマー、技術者が集結して新しい世代に向けたテクニカルなニットウエアの開発に力をいれています。

ナイキテックニットは、14時間以上の動作においても保温性と通気性の両方を確保し、機能性だけでなく着用時の美しさも実現させた人間工学に基づいたニットウェアになっています。

これは前回の、GYAKUSOUの「ニットスリーブプルオーバーフーディー」と違い、ファスナーやポケットなど補強として必要な場所以外はすべて横編みの成形で編まれ、それぞれのパーツをリンキング縫製をしてある「スポーツウェアにおけるテーラード」のような製品です。

●袖口・裾の編み出し●

袖口・裾は横編みニット特有の編み出し(袋天竺)を使っているため、布帛やカットソーのように裾口を折り返して縫製していいないのでごわつかずとてもすっきりしています。
裾・袖口

●前身頃部分●

前身頃
前身頃のパーツも成形で編み立てされ、前身後の黒いラインやその上のタックを入れたダブルジャカード部分も、切り替えをしないで1パーツのみで編み立てしています。

●袖部分・後ろ見頃●

袖
袖ぐりと脇はもちろんリンキングで縫製されています。
人間工学に基づいて一番体に馴染み易いラグラン袖を成形。
袖口から編みっぱなしで1枚袖として天竺部分とメッシュ部分で編み方を変えて通気性を調整しています。

背中
背中部分も切り替えがなく1枚のパーツのみでいろいろな編み方でデザインと厚みを調整しています。

●フード●

フード
HU-DO

フード部分は贅沢にもフード襟、フード部分、フードマチ、紐通し布表パーツと裏パーツ、パイピング部分の6パーツで構成されていて、より立体的に表現されています。このパーツも、それぞれ編み方で厚みや保温性・通気性を変え絶妙なシルエットに仕上がっています。また、フード襟とフード部分をつなぐ場所は表裏で布が使われ、はさみリンキングという、縫い代が一切見
えない。とても技術がいる特殊なリンキング縫製としています。

●ポケット・ファスナー部分●

ファスナー
ポケット1
ポケットとファスナー部分は袋布やグログランテープなどの補強パーツを使いながら本縫いミシンで縫製をしています。
ニットパーツ同士をつなげるのはよりごわつきがなく伸縮性が出るリンキングでの縫製が向いていますが、ジップやポケットなどは消耗しやすく、固定しなければいないパーツは補強を施し本縫い縫製でより強度もあげています。

●スポーツウェアのテーラード●

スポーツウェアのニット製品のほとんどが、横編み機ではなく丸編み機で編まれた生地をパターンカットし、カットソーや布帛として縫製されています。
または、横編みで編まれた生地をカットして、リンキング縫製をほとんど使わずロックや本縫ミシンで縫製されてニットソーとして製品になっています。

横編み機を使うことで、裾口の始末の必要がなく、限りなく布帛に近いパターンを成形で表現してリンキング縫製してシルエットがありつつ限りなく縫製のごわつきを抑えることが出来ます。(糸ロスも少なくなります)

また1枚のパーツだけで編み方や色味、糸を変えることも自由自在なのでデザインの幅が広がると共に、厚みを調整して、柔軟性・通気性・保温性を部位によって特徴を出すことができます。

今こそプロダクト製品のアプローチで時間をかけて開発する必要が

工業用編み機は1台数百万~数千万するため、サンプルの編み立ての時間を少なくし、ロットが多い製品の生産をして24時間体制で動かすことが求められます。最近ではより編み立てのスピードが速い機械や、ホールガーメントの機械により生産効率が上がっていることがフォーカスされています。

ナイキテックニットのようなスポーツ製品をほとんど見ないのは、横編みニットで生産すると編み立てに時間がかかってしまうのと、リンキング縫製が割高でコストが高くなってしまうのが原因のひとつとしてあります。
また工場の生産構造上、サンプル生産に時間をかけられず、アパレルの生産サイクルの縛りによって特徴を持った個性ある製品が生まれず効率化に走りすぎてしまい、同じような商品が店頭に並んでしまっているのも事実です。*ホールガーメントの商品が「脇や袖下、肩などに縫い代がない製品」と表記されているのもそれが原因のひとつと考えられます。

工場はニットの生産には特化しているが、ニット製品の企画力はあまりない。
ブランドやメーカーやデザイナーはデザインや企画力はあるが、サンプルを作ることも生産力もない。

布帛で考えると、生地さえあれば自らパターンを引いて縫製までしてサンプルを上げることが出来ますが、横編みニットではこれが不可能で(手編みは除く)、だからこそ最近では個人レベルや小さな会社が工業用編み機を保持し、開発に時間をかけてより差別化したハイクオリティーのニット製品作っている会社が少しずつ増えて来ました。

以前に紹介した「Knitlogyニットロジー」が典型的な例で、自分たちで生産背景(編み機)を持って、研究として時間を費やせばプロダクトのような提案でよりクオリティの高い次世代のテクニカルなニット製品が出来ると考えられます。

今後、横編ニットの工場として開発に情熱や信念、そして予算をかけこのようなアプローチをするオリジナルブランドが出てくることでしょう。